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(revised on 2013/09/15)
於春々大哉春と云々
青くてもあるべきものを唐辛子
青ざしや草餅の穂に出でつらん
青柳の泥にしだるる潮干かな
曙はまだ紫にほととぎす
あけぼのや白魚白きこと一寸
あこくその心も知らず梅の花
あち東風や面々さばき柳髪
鮎の子の白魚送る別れ哉
あらたふと青葉若葉の日の光
幾霜に心ばせをの松飾り
糸桜こや帰るさの足もつれ
糸遊に結びつきたる煙哉
凍て解けて筆に汲み干す清水哉
命二つの中にいきたる桜かな
芋植ゑて門は葎の若葉かな
入逢の鐘もきこえず春の暮
入りかかる日も糸遊の名残かな
植うる事子のごとくせよ児桜
うかれける人や初瀬の山桜
鶯の笠落したる椿かな
鶯や餅に糞する縁の先
鶯や柳のうしろ薮の前
鶯を魂にねむるか矯柳
うたがふな潮の花も浦の春
宇知山や外様しらずの花盛り
打ち寄りて花入探れ梅椿
姥桜咲くや老後の思ひ出
梅が香に追ひもどさるる寒さかな
梅が香にのつと日の出る山路哉
梅が香に昔の一字あはれなり
梅が香やしらら落窪京太郎
梅が香や見ぬ世の人に御意を得る
梅白し昨日や鶴を盗まれし
梅の木に猶宿り木や梅の花
梅柳さぞ若衆かな女かな
梅若菜丸子の宿のとろろ汁
うらやまし浮世の北の山桜
叡慮にて賑わふ民の庭竈
艶ナル奴今様花に弄斎ス
大津絵の筆のはじめは何仏
大比叡やしの字を引いて一霞
起きよ起きよ我が友にせん寝る胡蝶
御子良子の一本ゆかし梅の花
衰ひや歯に喰ひ当てし海苔の砂
おもしろや今年の春も旅の空
思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
顔に似ぬ発句も出でよ初桜
牡蠣よりは海苔をば老の売りもせで
かげろふの我が肩に立つ紙子かな
陽炎や柴胡の糸の薄曇り
樫の木の花にかまはぬ姿かな
風吹けば尾細うなる犬桜
数へ来ぬ屋敷屋敷の梅柳
門松やおもへば一夜三十年
悲しまんや墨子芹焼を見ても猶
香に匂へうに掘る岡の梅の花
鐘消えて花の香は撞く夕哉
鐘撞かぬ里は何をか春の暮
甲比丹もつくばはせけり君が春
傘に押し分けみたる柳かな
神垣や思ひもかけず涅槃像
紙衣の濡るとも折らん雨の花
枯芝ややや陽炎の一二寸
獺の祭見て来よ瀬田の奥
香を探る梅に蔵見る軒端かな
元日は田毎の日こそ恋しけれ
元日や思えばさびし秋の暮
観音のいらか見やりつ花の雲
木曽の情雪や生えぬく春の草
きてもみよ甚平が羽織花衣
木のもとに汁も膾も桜かな
君や蝶我や荘子が夢心
京は九万九千くんじゅの花見哉
草いろいろおのおの花の手柄かな
草の戸も住み替る代ぞ雛の家
草枕まことの華見しても来よ
草も木も離れ切つたるひばりかな
草臥れて宿かるころや頃や藤の花
雲とへだつ友かや雁の生き別れ
紅梅や見ぬ恋作る玉簾
声よくば謡はうものを桜散る
鸛の巣に嵐の外の桜哉
鸛の巣も見らるる花の葉越し哉
蝙蝠も出でよ浮世の華に鳥
この梅に牛も初音と鳴きつべし
この心推せよ花に五器一具
この種と思ひこなさじ唐辛子
この槌のむかし椿か梅の木か
このほどを花に礼いふ別れ哉
子に飽くと申す人には花もなし
薦を着て誰人います花の春
ごを焚いて手拭あぶる寒さ哉
蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉
蒟蒻の刺身もすこし梅の花
西行の庵もあらん花の庭
盃に泥な落しそ群燕
盛りぢや花に坐浮法師ぬめり妻
咲き乱す桃の中より初桜
さまざまのこと思ひ出す桜かな
四方より花吹き入れて鳰の波
しばらくは花の上なる月夜かな
丈六に陽炎高し石の上
初春まづ酒に梅売る匂ひかな
雀子と声鳴きかはす鼠の巣
住みつかぬ旅の心や置炬燵
草履の尻折りて帰らん山桜
袖汚すらん田螺の海士の隙を無み
誰が聟ぞ歯朶に餅負ふ丑の年
種芋や花の盛りに売り歩く
旅烏古巣は梅になりにけり
内裏雛人形天皇の御宇とかや
誰やらがかたちに似たり今朝の春
蝶鳥の浮つき立つや花の雲
蝶の飛ぶばかり野中の日影哉
蝶の羽のいくたび越ゆる塀の屋根
蝶よ蝶よ唐土の俳諧問はん
散る花や鳥も驚く琴の塵
月花もなくて酒のむ独り哉
月待や梅かたげ行く小山伏
躑躅生けてその陰に干鱈割く女
摘みけんや茶を凩の秋とも知で
鶴の毛の黒き衣や花の雲
庭訓の往来誰が文庫より今朝の春
手鼻かむ音さへ梅の盛り哉
天秤や京江戸かけて千代の春
当帰よりあはれは塚の菫草
年々や桜を肥やす花の塵
年々や猿に着せたる猿の面
年は人にとらせていつも若夷
土手の松花や木深き殿造り
永き日も囀り足らぬひばり哉
夏近しその口たばへ花の風
何の木の花とはしらず匂かな
菜畠に花見顔なる雀哉
奈良七重七堂伽藍八重ざくら
似合はしや豆の粉飯に桜狩り
猫の恋やむとき閨の朧月
猫の妻竃の崩れより通ひけり
子の日しに都へ行かん友もがな
涅槃会や皺手合する数珠の音
暖簾の奥ものふかし北の梅
呑み明けて花生にせん二升樽
海苔汁の手際見せけり浅黄椀
八九間空で雨降る柳かな
ばせを植ゑてまづ憎む荻の二葉哉
畑打つ音や嵐の桜麻
初午に狐の剃りし頭哉
初桜折りしも今日はよき日なり
初花に命七十五年ほど
花盛り山は日ごろの朝ぼらけ
花咲きて七日鶴見る麓哉
花に明かぬ嘆きや我が歌袋
花に遊ぶ虻な喰ひそ友雀
花にうき世我が酒白く飯黒し
花にいやよ世間口より風の口
花に寝ぬこれも類か鼠の巣
花にやどり瓢箪斎と自らいへり
花に酔へり羽織着て刀さす女
花の顔に晴れうてしてや朧月
花の陰謡に似たる旅寝哉
花の雲鐘は上野か浅草か
花は賎の目にも見えけり鬼薊
花見にと指す船遅し柳原
花木槿裸童のかざし哉
花を宿に始め終りや二十日ほど
葉にそむく椿の花やよそ心
原中やものにもつかず啼く雲雀
春風に吹き出し笑う花もがな
春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏り
春雨や蓑吹きかへす川柳
春雨や二葉に萌ゆる茄子種
春雨や蓬をのばす艸の道
春たちてまだ九日の野山かな
春立つとわらはも知るや飾り縄
春立つや新年ふるき米五升
春なれや名もなき山の朝霞
春の夜は桜に明けてしまひけり
春の夜や籠り人ゆかし堂の隅
春もやや気色ととのふ月と梅
春や来し年や行きけん小晦日
腫物に触る柳の撓哉
一里はみな花守の子孫かや
一とせに一度摘まるる薺かな
人も見ぬ春や鏡の裏の梅
独り尼藁屋すげなし白躑躅
雲雀鳴く中の拍子や雉子の声
不精さや掻き起されし春の雨
二日にもぬかりはせじな花の春
二日酔ひものかは花のあるあひだ
船足も休む時あり浜の桃
古川にこびて目を張る柳かな
古巣ただあはれなるべき隣かな
古畑やなづな摘みゆく男ども
蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声
蓬莱に聞かばや伊勢の初便り
発句なり松尾桃青宿の春
蛍見や船頭酔うておぼつかな
前髪もまだ若艸の匂ひかな
まづ知るや宜竹が竹に花の雪
待つ花や藤三郎が吉野山
またうどな犬ふみつけて猫の恋
真福田が袴よそふかつくづくし
水取りや氷の僧の沓の音
麦飯にやつるる恋か猫の妻
葎さへ若葉はやさし破れ家
餅花やかざしに插せる嫁が君
餅雪を白糸となす柳哉
餅を夢に折り結ぶ歯朶の草枕
物好きや匂はぬ草にとまる蝶
物の名を先づ問ふ蘆の若葉かな
物ほしや袋のうちの月と花
目の星や花を願ひの糸桜
藻にすだく白魚やとらば消えぬべき
山桜瓦葺くものまづ二つ
山里は万歳遅し梅の花
山路来て何やらゆかし菫草
山は猫ねぶりて行くや雪の隙
やまぶきの露菜の花のかこち顔なるや
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時
山吹や笠に挿すべき枝の形
闇の夜や巣をまどはして鳴く鵆
夕晴れや桜に涼む波の華
雪間より薄紫の芽独活哉
行く春や鳥啼き魚の目は泪
行く春を近江の人と惜しみける
よく見れば薺花咲く垣根かな
吉野にて桜みせうぞ檜笠
四つ五器のそろはぬ花見心哉
世に盛る花にも念仏申しけり
世に匂へ梅花一枝のみそさざい
四方に打つ薺もしどろもどろ哉
龍宮も今日の潮路や土用干
両の手に桃と桜や草の餅
わが衣に伏見の桃の雫せよ
我がためか鶴食み残す芹の飯
煩へば餅をも喰はず桃の花
忘るなよ薮の中なる梅の花
我も神のひさうや仰ぐ梅の花
朝顔に我は飯食う男哉
朝顔は酒盛知らぬ盛り哉
朝露や撫でて涼しき瓜の土
足洗うてつひ明けやすき丸寝かな
紫陽花や帷子時の薄浅黄
紫陽花や薮を小庭の別座舗
明日は粽難波の枯葉夢なれや
暑き日を海にいれたり最上川
あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ
雨折々思ふことなき早苗哉
あやめ生ひけり軒の鰯のされかうべ
あやめ草足に結ばん草鞋の緒
有難き姿拝まんかきつばた
ありがたや雪をかをらす南谷
烏賊売の声まぎらはし杜宇
いざ共に穂麦喰はん草枕
石の香や夏草赤く露暑し
いでや我よき布着たり蝉衣
命なりわづかの笠の下涼み
入る月の跡は机の四隅哉
岩躑躅染むる涙やほととぎ朱
憂き人の旅にも習へ木曽の蝿
鶯や竹の子薮に老を鳴く
団扇もてあふがん人のうしろむき
美しきその姫瓜や后ざね
卯の花も母なき宿ぞ冷じき
卯の花や暗き柳の及び腰
馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな
海は晴れて比叡降り残す五月哉
梅恋ひて卯の花拝む涙かな
瓜作る君があれなと夕涼み
瓜の皮剥いたところや蓮台野
瓜の花雫いかなる忘れ草
笈も太刀も五月に飾れ紙幟
近江蚊屋汗やさざ波夜の床
己が火を木々に蛍や花の宿
落ち来るや高久の宿の郭公
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな
杜若われに発句の思ひあり
景清も花見の座には七兵衛
隠さぬぞ宿は菜汁に唐辛子
笠島はいづこ五月のぬかり道
笠寺や漏らぬ岩屋も春の雨
風薫る羽織は襟もつくろはず
風の香も南に近し最上川
かたつぶり角振り分けよ須磨明石
語られぬ湯殿にぬらす袂かな
鰹売りいかなる人を酔はすらん
鎌倉を生きて出でけん初鰹
髪生えて容顔青し五月雨
辛崎の松は花より朧にて
唐破風の入日や薄き夕涼み
川風や薄柿着たる夕涼み
象潟や雨に西施が合歓の花
木啄も庵は破らず夏木立
京にても京なつかしやほととぎす
清く聞かん耳に香焼いて郭公
清滝や波に塵なき夏の月
清滝の水汲ませてやところてん
水鶏啼くと人のいへばや佐屋泊り
草の葉を落つるより飛ぶ螢哉
愚に暗く茨を掴む蛍かな
雲の峰いくつ崩れて月の山
雲を根に富士は杉形の茂りかな
椹や花なき蝶の世捨酒
梢よりあだに落ちけり蝉の殻
木隠れて茶摘みも聞くやほととぎす
小鯛插す柳涼しや海士が家
子供等よ昼顔咲きぬ瓜剥かん
この寺は庭一盃のばせを哉
この螢田毎の月にくらべみん
この宿は水鶏も知らぬ扉かな
盛りなる梅にす手引く風もがな
桜より松は二木を三月越し
さざ波や風の薫の相拍子
篠の露袴に掛けし茂り哉
さざれ蟹足這ひのぼる清水哉
五月の雨岩檜葉の緑いつまでぞ
里の子よ梅折り残せ牛の鞭
里人は稲に歌詠む都かな
早苗とる手もとや昔しのぶ摺
五月雨に御物遠や月の顔
五月雨に隠れぬものや瀬田の橋
五月雨に鶴の足短くなれり
五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん
五月雨の空吹き落せ大井川
五月雨の降り残してや光堂
五月雨は滝降り埋むみかさ哉
五月雨も瀬踏み尋ねぬ見馴河
五月雨や桶の輪切るる夜の声
五月雨や蠶煩ふ桑の畑
五月雨や龍燈あぐる番太郎
五月雨を集めて早し最上川
寒からぬ露や牡丹の花の蜜
皿鉢もほのかに闇の宵涼み
椎の花の心にも似よ木曽の旅
汐越や鶴脛ぬれて海涼し
閑さや岩にしみ入蝉の声
しばし間も待つやほととぎす千年
柴付けし馬のもどりや田植樽
しばらくは瀧にこもるや夏の初め
島々や千々に砕きて夏の海
白芥子に羽もぐ蝶の形見かな
白芥子や時雨の花の咲きつらん
白魚や黒き目を明く法の網
城跡や古井の清水まづ訪はん
涼しさや直に野松の枝の形
涼しさやほの三日月の羽黒山
涼しさを絵にうつしけり嵯峨の竹
涼しさを飛騨の工が指図かな
涼しさをわが宿にしてねまるなり
駿河路や花橘も茶の匂ひ
関守の宿を水鶏に問はうもの
剃り捨てて黒髪山に衣更
田一枚植ゑて立ち去る柳かな
たかうなや雫もよよの篠の露
高水に星も旅寝や岩の上
橘やいつの野中の郭公
七夕の逢はぬ心や雨中天
楽しさや青田に涼む水の音
田や麦や中にも夏のほととぎす
旅人の心にも似よ椎の花
苣はまだ青葉ながらに茄子汁
地に倒れ根に寄り花の別れかな
粽結ふ片手にはさむ額髪
撞鐘もひびくやうなり蝉の声
鶴鳴くやその声に芭蕉破れぬべし
鳥刺も竿や捨てけんほととぎす
どんみりと樗や雨の花曇り
無き人の小袖も今や土用干
夏来てもただひとつ葉の一葉かな
夏草に富貴を飾れ蛇の衣
夏草や兵どもが夢の跡
夏草や我先達ちて蛇狩らん
夏木立佩くや深山の腰ふさげ
夏の月御油より出でて赤坂や
夏の夜や崩れて明けし冷し物
夏山に足駄を拝む首途かな
南無ほとけ草の台も涼しかれ
西か東かまづ早苗にも風の音
合歓の木の葉越しも厭へ星の影
蚤虱馬の尿する枕もと
野を横に馬引き向けよほととぎす
這ひ出よ飼屋が下の蟾の声
蓮の香を目にかよはすや面の鼻
初真桑四つにや断たん輪に切らん
花あやめ一夜に枯れし求馬哉
花と実と一度に瓜の盛りかな
日の道や葵傾く五月雨
百里来たりほどは雲井の下涼み
鼓子花の短夜眠る昼間哉
ひらひらと挙ぐる扇や雲の峰
昼顔に米搗き涼むあはれなり
昼顔に昼寝せうもの床の山
風流の初めや奥の田植歌
吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな
富士の風や扇にのせて江戸土産
富士の山蚤が茶臼の覆かな
降らずとも竹植うる日は蓑と笠
降る音や耳も酸うなる梅の雨
古池や蛙飛びこむ水の音
蛍火の昼は消えつつ柱かな
牡丹蘂深く分け出づる蜂の名残かな
ほととぎす今は俳諧師なき世哉
ほととぎす裏見の滝の裏表
時鳥鰹を染めにけりけらし
時鳥正月は梅の花咲けり
ほととぎす鳴く鳴く飛ぶぞ忙はし
ほととぎす鳴く音や古き硯箱
ほととぎす鳴くや五尺の菖草
郭公招くか麦のむら尾花
秣負う人を枝折の夏野哉
先づ頼む椎の木も有り夏木立
又やたぐひ長良の川の鮎鱠
松風の落葉か水の音涼し
松杉をほめてや風のかをる音
眉掃を俤にして紅粉の花
三ケ月や朝顔の夕べ蕾むらん
湖や暑さを惜しむ雲の峰
水の奥氷室尋ぬる柳哉
水向けて跡訪ひたまへ道明寺
水無月は腹病やみの暑さかな
水無月や鯛はあれども塩鯨
見渡せば詠むれば見れば須磨の秋
麦の穂を力につかむ別れかな
麦生えてよき隠れ家や畑村
飯あふぐ嬶が馳走や夕涼み
目に残る吉野を瀬田の螢哉
窓形に昼寝の台や簟
麦の穂を便りにつかむ別れかな
掬ぶより早歯にひびく泉かな
めづらしや山を出羽の初茄子
目にかかる時やことさら五月富士
もろき人にたとへん花も夏野哉
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声
宿りせん藜の杖になる日まで
柳行李片荷は涼し初真桑
山賎のおとがひ閉づる葎かな
山も庭に動き入るるや夏座敷
闇の夜きつね下はふ玉真桑
夕顔に干瓢むいて遊びけり
夕顔に見とるるや身もうかりひよん
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて
夕顔や秋はいろいろの瓢哉
夕顔や酔うて顔出す窓の穴
夕にも朝にもつかず瓜の花
雪の河豚左勝水無月の鯉
行く駒の麦に慰むやどりかな
湯をむすぶ誓ひも同じ石清水
酔うて寝ん撫子咲ける石の上
世の夏や湖水に浮む浪の上
世の人の見付けぬ花や軒の栗
世を旅に代掻く小田の行きもどり
六月や峰に雲置く嵐山
我が宿は蚊の小さきを馳走かな
忘れずば小夜の中山にて涼め
笑ふべし泣くべしわが朝顔の凋む時
我に似るなふたつに割れし真桑瓜
あかあかと日はつれなくも秋の風
秋風に折れて悲しき桑の杖
秋風の吹けども青し栗の毬
秋風の遣戸の口やとがり声
秋風や桐に動きて蔦の霜
秋風や薮も畠も不破の関
秋来にけり耳を訪ねて枕の風
秋来ぬと妻恋ふ星や鹿の革
秋涼し手ごとにむけや瓜茄子
秋近き心の寄るや四畳半
秋十年却って江戸を指す故郷
秋に添うて行かばや末は小松川
秋の色糠味噌壷もなかりけり
秋の風伊勢の墓原なほ凄し
秋の夜を打ち崩したる咄かな
秋深き隣は何をする人ぞ
秋もはやはらつく雨に月の形
秋を経て蝶もなめるや菊の露
明け行くや二十七夜も三日の月
朝顔は下手の書くさへあはれなり
蕣や是も又我が友ならず
朝顔や昼は錠おろす門の垣
朝茶飲む僧静かなり菊の花
あさむつや月見の旅の明け離れ
朝な朝な手習ひすすむきりぎりす
明日の月雨占なはん比那が嶽
あの雲は稲妻を待つたより哉
あの中に蒔絵書きたし宿の月
海士の屋は小海老にまじるいとど哉
雨の日や世間の秋を堺町
荒海や佐渡によこたふ天河
粟稗にとぼしくもあらず草の庵
家はみな杖に白髪の墓参り
いざよひのいづれか今朝に残る菊
漁り火に鰍や浪の下むせび
十六夜はわづかに闇の初め哉
十六夜もまだ更科の郡かな
十六夜や海老煮るほどの宵の闇
石山の石より白し秋の風
稲雀茶の木畠や逃げ処
稲妻に悟らぬ人の貴さよ
稲妻や闇の方行く五位の声
稲妻や顔のところが薄の穂
稲妻を手にとる闇の紙燭哉
稲こきの姥もめでたし菊の花
猪の床にも入るやきりぎりす
猪もともに吹かるる野分かな
命こそ芋種よまた今日の月
芋の葉や月待つ里の焼畑
色付くや豆腐に落ちて薄紅葉
憂きわれを寂しがらせよ秋の寺
憂きわれを寂しがらせよ閑古鳥
牛部屋に蚊の声暗き残暑哉
馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり
榎の実散る椋の羽音や朝嵐
枝ぶりの日ごとに変る芙蓉かな
枝もろし緋唐紙破る秋の風
老の名のありとも知らで四十雀
祖父親孫の栄えや柿蜜柑
起きあがる菊ほのかなり水のあと
荻の声こや秋風の口うつし
荻の穂や頭をつかむ羅生門
送られつ別れつ果ては木曽の秋
御命講や油のような酒五升
俤や姥ひとり泣く月の友
おもしろき秋の朝寝や亭主ぶり
折々は酢になる菊の肴かな
隠れ家や月と菊とに田三反
桟橋や命をからむ蔦葛
桟や先づ思い出づ駒迎へ
影は天の下照る姫か月の顔
影待や菊の香のする豆腐串
数ならぬ身とな思ひそ玉祭
風色やしどろに植ゑし庭の秋
桂男すまずなりけり雨の月
刈り跡や早稲かたかたの鴫の声
刈りかけし田面の鶴や里の秋
川上とこの川下や月の友
香を残す蘭帳蘭のやどり哉
菊鶏頭切り尽しけり御命講
菊に出でて奈良と難波は宵月夜
菊の香にくらがり登る節句かな
菊の香や奈良には古き仏たち
菊の香や奈良は幾世の男ぶり
菊の香や庭に切れたる履の底
菊の露落ちて拾へば零余子かな
菊の花咲くや石屋の石の間
木曽の橡浮世の人の土産かな
木曽の痩せもまだなほらぬに後の月
木の葉散る桜は軽し檜木笠
けふの今宵寝る時もなき月見哉
今日よりや書付消さん笠の露
霧雨の空を芙蓉の天気哉
きりぎりす忘れ音に啼く火燵哉
霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき
桐の木に鶉鳴くなる塀の内
木を切りて本口見るや今日の月
愚案ずるに冥土もかくや秋の暮
草の戸や日暮れてくれし菊の酒
草の戸を知れや穂蓼に唐辛子
葛の葉の面見せけり今朝の霜
九たび起きても月の七ツ哉
熊坂がゆかりやいつの玉祭
国々の八景さらに気比の月
雲をりをり人をやすめる月見かな
雲霧の暫時百景を尽しけり
蜘蛛何と音をなにと鳴く秋の風
御廟年経て偲ぶは何をしのぶ草
鶏頭や雁の来る時なほ赤し
実にや月間口千金の通り町
声澄みて北斗にひびく砧哉
苔埋む蔦のうつつの念仏哉
こちら向け我もさびしき秋の暮
胡蝶にもならで秋経る菜虫哉
琴箱や古物店の背戸の菊
この秋は何で年寄る雲に鳥
この松の実生えせし代や神の秋
この道を行く人なしに秋の暮
小萩散れますほの小貝小盃
米くるる友を今宵の月の客
籠り居て木の実草の実拾はばや
今宵誰吉野の月も十六里
今宵の月磨ぎ出せ人見出雲守
衣着て小貝拾はん種の月
西行の草鞋もかかれ松の露
盃に三つの名を飲む今宵かな
盃の下ゆく菊や朽木盆
盃や山路の菊と是を干す
さぞな星ひじき物には鹿の革
座頭かと人に見られて月見哉
里古りて柿の木持たぬ家もなし
淋しさや釘に掛けたるきりぎりす
寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋
猿引は猿の小袖を砧哉
猿を聞く人捨子に秋の風いかに
しほらしき名や小松吹萩すすき
賎の子や稲摺りかけて月を見る
柴の戸の月やそのまま阿弥陀坊
白髪抜く枕の下やきりぎりす
白菊の目に立て見る塵もなし
白菊よ白菊よ恥長髪よ長髪よ
白露もこぼさぬ萩のうねり哉
秋海棠西瓜の色に咲きにけり
錠明けて月さし入れよ浮御堂
新藁の出初めて早き時雨哉
水学も乗り物貸さん天の川
硯かと拾ふやくぼき石の露
僧朝顔幾死に返る法の松
蒼海の浪酒臭し今日の月
その玉や羽黒にかへす法の月
そのままよ月もたのまじ伊吹山
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな
蕎麦も見てけなりがらせよ野良の萩
鷹の目も今や暮れぬと鳴く鶉
茸狩やあぶなきことに夕時雨
七夕や秋を定むる夜のはじめ
旅に飽きてけふ幾日やら秋の風
旅寝して我が句を知れや秋の風
玉祭り今日も焼場の煙哉
手向けけり芋は蓮に似たるとて
たんだすめ住めば都ぞ今日の月
蝶も来て酢を吸ふ菊の鱠哉
塚も動けわが泣く声は秋の風
月いづく鐘は沈める海の底
月影や四門四宗もただ一つ
月清し遊行の持てる砂の上
月さびよ明智が妻の話せむ
月十四日今宵三十九の童部
月代や膝に手を置く宵の宿
月澄むや狐こはがる児の供
月ぞしるべこなたへ入らせ旅の宿
月に名を包みかねてや痘瘡の神
月の鏡小春に見るや目正月
月のみか雨に相撲もなかりけり
月はやし梢は雨を持ちながら
月見する座にうつくしき顔もなし
月見せよ玉江の芦を刈らぬ先
蔦植ゑて竹四五本の嵐かな
蔦の葉は昔めきたる紅葉哉
手にとらば消えん涙ぞ熱き秋の霜
寺に寝てまこと顔なる月見かな
冬瓜やたがひに変る顔の形
唐黍や軒端の萩の取りちがえ
尊がる涙や染めて散る紅葉
尊さに皆おしあひぬ御遷宮
蜻蜒や取りつきかねし草の上
中山や越路も月はまた命
詠むるや江戸には稀な山の月
夏かけて名月暑き涼み哉
撫子にかかる涙や楠の露
撫子の暑さ忘るる野菊かな
七株の萩の千本や星の秋
なに喰うて小家は秋の柳陰
何事の見立てにも似ず三日の月
何ごとも招き果てたる薄哉
なまぐさし小菜葱が上の鮠の腸
波の間や小貝にまじる萩の塵
煮麺の下焚きたつる夜寒哉
庭掃いて出でばや寺に散る柳
濡れて行くや人もをかしき雨の萩
寝たる萩や容顔無礼花の顔
野ざらしを心に風のしむ身かな
萩原や一夜はやどせ山の犬
橋桁の忍は月の名残り哉
芭蕉葉を柱に懸けん庵の月
蓮池や折らでそのまま玉祭
初秋や海も青田も一みどり
初秋や畳みながらの蚊屋の夜着
初霜や菊冷え初むる腰の綿
初茸やまだ日数経ぬ秋の露
鳩の声身に入みわたる岩戸哉
蛤のふたみにわかれ行秋ぞ
早く咲け九日も近し菊の花
張抜きの猫も知るなり今朝の秋
ぴいと啼く尻声悲し夜の鹿
東西あはれさひとつ秋の風
人ごとの口にあるなりした椛
一家に遊女もねたり萩と月
日にかかる雲やしばしの渡り鳥
ひやひやと壁をふまえて昼寝哉
病雁の夜寒に落ちて旅寝哉
ひよろひよろと尚露けしや女郎花
百歳の気色を庭の落葉哉
ひれ振りてめじかも寄るや男鹿島
吹き飛ばす石は浅間の野分かな
藤の実は俳諧にせん花の跡
富士の雪慮生が夢を築かせたり
文月や六日も常の夜には似ず
文ならぬいろはもかきて火中哉
古き名の角鹿や恋し秋の月
鬼灯は実も葉も殻も紅葉哉
升買うて分別替る月見哉
松風や軒をめぐって秋暮れぬ
松茸やかぶれたほどは松の形
松茸や知らぬ木の葉のへばり付く
松なれや霧えいさらえいと引くほどに
町医師や屋敷方より駒迎へ
三井寺の門敲かばや今日の月
見送りのうしろや寂し秋の風
三日月の地はおぼろ也蕎麦の花
見しやその七日は墓の三日の月
三十日月なし千年の杉を抱く嵐
道のべの木槿は馬に食はれけり
道ほそし相撲取り草の花の露
見所のあれや野分の後の菊
身にしみて大根からし秋の風
蓑虫の音を聞きに来よ草の庵
都出でて神も旅寝の日数哉
見る影やまだ片なりも宵月夜
見るに我も折れるばかりぞ女郎花
昔聞け秩父殿さへすまふとり
武蔵野の月の若生えや松島種
武蔵野や一寸ほどな鹿の声
武蔵野やさはるものなき君が傘
むざんやな甲の下のきりぎりす
名月に麓の霧や田の曇り
名月の出ずるや五十一ヶ条
名月の花かと見えて綿畠
名月の見所問はん旅寝せん
名月はふたつ過ぎても瀬田の月
名月や池をめぐりて夜もすがら
名月や海に向かへば七小町
名月や門にさしくる潮がしら
名月や座に美しき顔もなし
名月や児立ち並ぶ堂の縁
名月や北国日和定めなき
女男鹿や毛に毛が揃うて毛むつかし
物いへば唇寒し秋の風
物書いて扇引き裂く名残かな
門に入れば蘇鉄に蘭のにほひ哉
桃の木のその葉散らすな秋の風
薬欄にいづれの花を草枕
やすやすと出でていざよふ月の雲
痩せながらわりなき菊のつぼみ哉
山中や菊は手折らぬ湯の匂
行く秋の芥子に迫りて隠れけり
行く秋のなほ頼もしや青蜜柑
行く秋や手をひろげたる栗の毬
行く秋や身に引きまとふ三布蒲団
湯の名残り幾度見るや霧のもと
湯の名残り今宵は肌の寒からん
よき家や雀よろこぶ背戸の秋
義朝の心に似たり秋の風
義仲の寝覚めの山か月悲し
世の中は稲刈るころか草の庵
夜ル竊ニ虫は月下の栗を穿ツ
よるべをいつ一葉に虫の旅寝して
蘭の香や蝶の翅に薫物す
わが宿は四角な影を窓の月
早稲の香や分け入る右は有磯海
綿弓や琵琶に慰む竹の奥
侘びて澄め月侘斎が奈良茶歌
遊び来ぬ鰒釣りかねて七里まで
あら何ともなや昨日は過ぎて河豚汁
霰聞くやこの身はもとの古柏
霰せば網代の氷魚を煮て出さん
霰まじる帷子雪は小紋かな
有明も三十日に近し餅の音
いかめしき音や霰の檜木笠
生きながら一つに氷る海鼠かな
いざ子供走りありかん玉霰
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
石山の石にたばしる霰哉
市人よこの笠売らう雪の笠
いづく時雨傘を手に提げて帰る僧
五つ六つ茶の子にならぶ囲炉裏哉
いらご崎似るものもなし鷹の声
魚鳥の心は知らず年忘れ
埋火も消ゆや涙の烹ゆる音
埋火や壁には客の影法師
馬をさえ眺むる雪の朝かな
海暮れて鴨の声ほのかに白し
恵比須講酢売に袴着せにけり
馬方は知らじ時雨の大井川
梅椿早咲き褒めん保美の里
幼名や知らぬ翁の丸頭巾
小野炭や手習ふ人の灰ぜせり
面白し雪にやならん冬の雨
折々に伊吹を見ては冬籠り
かくれけり師走の海のかいつぶり
笠もなきわれを時雨るるかこは何と
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき
徒歩ならば杖突坂を落馬かな
瓶割るる夜の氷の寝覚め哉
乾鮭も空也の痩も寒の中
雁さわぐ鳥羽の田面や寒の雨
借りて寝ん案山子の袖や夜半の霜
枯枝に烏のとまりたるや秋の暮
寒菊や醴造る窓の前
寒菊や粉糠のかかる臼の端
菊の後大根の外更になし
きみ火をたけよき物見せん雪丸げ
狂句木枯しの身は竹斎に似たるかな
京に飽きてこの木枯や冬住ひ
今日ばかり人も年寄れ初時雨
京まではまだ半空や雪の雲
金屏の松の古さよ冬籠り
草枕犬も時雨るるか夜の声
薬飲むさらでも霜の枕かな
鞍壷に小坊主乗るや大根引
暮れ暮れて餅を木魂の侘寝哉
黒森をなにといふとも今朝の雪
けごろもにつつみて温し鴨の足
今朝の雪根深を園の枝折哉
口切に堺の庭ぞなつかしき
消炭に薪割る音かをのの奥
氷苦く偃鼠が喉をうるほせり
木枯に岩吹きとがる杉間かな
こがらしや頬腫痛む人の顔
凩に匂ひやつけし返り花
木枯しや竹に隠れてしづまりぬ
この海に草鞋捨てん笠時雨
古法眼出どころあはれ年の暮
米買ひに雪の袋や投頭巾
これや世の煤に染まらぬ古合子
さし籠る葎の友か冬菜売り
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき
さればこそ荒れたきままの霜の宿
三尺の山も嵐の木の葉哉
塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店
塩にしてもいざ言伝ん都鳥
萎れ伏すや世はさかさまの雪の竹
しぐるるや田の新株の黒むほど
時雨をやもどかしがりて松の雪
しのぶさへ枯れて餅買ふやどりかな
柴の戸に茶を木の葉掻く嵐かな
霜枯に咲くは辛気の花野哉
霜の後撫子咲ける火桶哉
霜を踏んでちんば引くまで送りけり
少将の尼の話や志賀の雪
水仙や白き障子のとも移り
煤掃は己が棚つる大工かな
煤掃は杉の木の間の嵐哉
須磨の浦の年取り物や柴一把
節季候の来れば風雅も師走哉
節季候を雀の笑ふ出立かな
せつかれて年忘れする機嫌かな
芹焼や裾輪の田井の初氷
雑水に琵琶聴く軒の霰かな
袖の色よごれて寒し濃鼠
その形見ばや枯れ木の杖の長
その匂ひ桃より白し水仙花
鷹一つ見付けてうれし伊良湖崎
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
旅寝して見しやうき世の煤はらい
旅寝よし宿は師走の夕月夜
旅人とわが名呼ばれん初しぐれ
ためつけて雪見にまかる紙子かな
たわみては雪待つ竹の気色かな
千鳥立ち更け行く初夜の日枝颪
長嘯の墓もめぐるか鉢叩き
作りなす庭をいさむる時雨かな
月白き師走は子路が寝覚め哉
月花の愚に針立てん寒の入り
月やその鉢木の日のした面
月雪とのさばりけらし年の暮
露凍てて筆に汲み干す清水哉
霜を着て風を敷き寝の捨子哉
白炭やかの浦島が老の箱
たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠
磨ぎなほす鏡も清し雪の花
年暮れぬ笠きて草鞋はきながら
年の市線香買ひに出でばやな
なかなかに心をかしき臘月哉
納豆切る音しばし待て鉢叩き
何にこの師走の市にゆく烏
難波津や田螺の蓋も冬ごもり
波の花と雪もや水の返り花
なりにけりなりにけりまで年の暮
庭掃きて雪を忘るる帚かな
盗人に逢うた夜もあり年の暮れ
葱白く洗ひたてたる寒さ哉
箱根こす人も有るらし今朝の雪
初時雨猿も小蓑を欲しげなり
初時雨初の字を我が時雨哉
初雪に兎の皮の髭作れ
初雪やいつ大仏の柱立
初雪や懸けかかりたる橋の上
初雪や幸ひ庵にまかりある
初雪や水仙の葉のたわむまで
初雪や聖小僧が笈の色
花みな枯れてあはれをこぼす草の種
蛤の生けるかひあれ年の暮
半日は神を友にや年忘れ
一尾根はしぐるる雲か富士の雪
ひごろ憎き烏も雪の朝哉
一時雨礫や降って小石川
一露もこぼさぬ菊の氷かな
人に家を買はせて我は年忘れ
人々をしぐれよ宿は寒くとも
屏風には山を画書いて冬籠り
比良三上雪さしわたせ鷺の橋
琵琶行の夜や三味線の音霰
貧山の釜霜に鳴く声寒し
二人見し雪は今年も降りけるか
振売の雁あはれなり恵美須講
旧里や臍の緒に泣く年の暮
冬籠りまた寄りそはんこの柱
冬知らぬ宿や籾摺る音霰
冬庭や月もいとなる虫の吟
冬の日や馬上に凍る影法師
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
分別の底たたきけり年の昏
星崎の闇を見よとや啼く千鳥
まづ祝へ梅を心の冬籠り
皆出でて橋を戴く霜路哉
皆拝め二見の七五三を年の暮
宮守よわが名を散らせ木葉川
物書きて扇引さく余波哉
もののふの大根苦しき話哉
山城へ井出の駕籠借る時雨哉
雪散るや穂屋の薄の刈り残し
雪の朝独り干鮭を噛み得タリ
雪や砂馬より落ちよ酒の酔
雪を待つ上戸の顔や稲光
夜着は重し呉天に雪を見るあらん
夜着ひとつ祈り出して旅寝かな
夜すがらや竹氷らする今朝の霜
雪と雪今宵師走の名月か
行く雲や犬の駆け尿村時雨
夢よりも現の鷹ぞ頼もしき
留守のまに荒れたる神の落葉哉
炉開きや左官老い行く鬢の霜
朝夜さを誰がまつしまぞ片心
月か花か問へど四睡が鼾哉
月華の是やまことのあるじ達