芭蕉db
   山中十景 高瀬漁火

漁り火に鰍や浪の下むせび

(真蹟懐紙)

(いさりびに かじかやなみの したむせび)

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 元禄2年7月末。『奥の細道』旅中、加賀山中温泉にて。山中温泉旅館の主挑妖の説明で、この山中温泉には十景があって、その中に「高瀬の漁火」というものがあると聞いて芭蕉は作句したといわれている。それゆえ、この句は題詠であって嘱目吟ではない。

漁り火に鰍や浪の下むせび

 高瀬の漁火に照らされて、水の中のカジカは波の下で漁火にむせて鳴くのであろうか。いま、カジカの鳴声が聞こえる。
 ここにいう鰍<かじか>は、ハゼに似た淡水魚で口が大きく泳ぎの下手な魚で、鳴かない。鳴くのは河鹿であってこれは蛙に似た四足の動物で、魚ではない。
 なお、『東西夜話』には、
「此の地に十景あり。先師むかし高瀬の漁火といふ題をとりて」と前詞して「ゝり火 に河鹿や波の下むせひ」とある。


石川県加賀市山中温泉にある「かゝり火に河鹿や波の下むせひ」の句碑(牛久市森田武さん提供)


カジカの棲むと言われた道命ヶ淵(同上)