芭蕉db

富士の雪慮生が夢を築かせたり

(六百番俳諧発句合)

(ふじのゆき ろせいがゆめを つかせたり)

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 延宝5年、芭蕉34歳の時の作。芭蕉は、この年に俳諧宗匠として立机(プロの俳諧師になること)したらしい。この年22句が現存する。

富士の雪慮生が夢を築かせたり

「慮生が夢<ろせいがゆめ>」は、別名「邯鄲の枕<かんたんのまくら>」・「黄梁一炊の夢<こうりょういっすいのゆめ>」などと呼ばれる中国の故事。黄梁は大粟のこと。邯鄲は中国河北省の都市の名。
 邯鄲という街で盧生という名の青年が、道士呂翁から思いのままの夢を見ることのできる不思議な枕を借りて夢を見る。栄耀栄華を夢に見ようと思って眠るとたちまち富貴の人となった。夢から覚めてみると未だ黄梁が煮えていなかったという。人の栄耀栄華など一瞬のものだという教え。
 ところで、富士の雪については、6月名残の雪が降って雪の季節を終えると、その晩には初雪が降るといわれている(現代では、最高気温を出した後に最初に降る雪を初雪という)。一句の意は、富士のしまいの雪と初雪の間の一瞬の間は、あたかも「盧生が夢」のようだというのである。