芭蕉db

笈の小文

(鳴海)


鳴海*に とまりて

星崎の闇を見よとや啼千鳥

(ほしざきの やみをみよとや なくちどり)

 飛鳥井雅章公*の 此宿にとまらせ給ひて、「都も遠くなるみがたはるけき海を中にへだてゝ」*と詠じ給ひけるを、自かゝせたまひて、たまはりけるよしをかたるに*

京まではまだ半空や雪の雲

(きょうまでは まだなかぞらや ゆきのくも)


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表紙 年表


星崎の闇を見よとや啼千鳥

 名古屋の鳴海は古来千鳥の名所で歌枕。この夜は月が無いのが残念だと恐縮する知足を慰めるように歌った句。「星」と「闇」を持ってきたことで窓の外の暗さがいやまさっている。
ところで千鳥にまつわるこの国の歌の多さは大変なものである。その一部を列挙すると、
となる。


名古屋市南区笠寺町の笠寺観音にある句碑(牛久市の森田武さん提供)

京まではまだ半空や雪の雲

飛鳥井雅章公が、京を離れて江戸へ下向するについて、ここ鳴海で「けふ(今日と京をかけた)も猶<なお>都も遠くなるみがた(なると鳴海潟をかけた)はるけき海を中にへだてて」と、京を懐かしんで詠んだ歌(『雅章卿詠草』)がある。この句は、逆方向に旅を続けている芭蕉のいわば返歌となっている。