芭蕉DB

野ざらし紀行

(奥吉野)


 独よし野ゝおくにたどりけるに、まことに山ふかく、白雲峯に重り、烟雨谷を埋ンで、山賎*の家處々にちいさく、西に木を伐音東にひヾき、院々の鐘の聲は心の底にこたふ。むかしよりこの山に入て世を忘たる人の、おほくは詩にのがれ、歌にかくる*。いでや唐土の廬山*といはむもまたむべならずや

ある坊に一夜を借りて

碪打て我にきかせよや坊が妻

(きぬたうちて われにきかせよ ぼうがつま)


前へ 次へ

表紙 年表


碪打て我にきかせよや坊が妻

碪を打つのは、布を柔らかくしたり、艶を出すため。『新古今和歌集』藤原雅経の歌に「み吉野の山の秋風小夜ふけて古里寒く衣打つなり」とあるを引用か。


句碑(吉野金峯山東南院にて森田武さん撮影)