芭蕉db
  都に旅寝して、鉢叩きのあはれ
  なる勤めを夜毎に聞き侍りて

乾鮭も空也の痩も寒の中

(真蹟懐紙)

(からざけも くうやのやせも かんのうち)

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 元禄3年12月、48歳。京都での作。 空也は、平安中期の天台宗の僧。早期の浄土信仰を広めた人。後世の空也聖たちは踊念仏を特徴とするが空也が唱導したのではないという。しかし、後世の浄土信仰には強い影響を与え、中でも一遍上人の時宗は空也の影響を強く受けたとされている。

乾鮭も空也の痩も寒の中

 乾鮭は、痩せ細ったものの象徴。しかも、乾鮭は寒中に作られ市中に出回る。一方、空也は空也上人だが、ここでは空也僧のこと。空也僧は、11月13日の空也忌から48日間寒中修業に入る。その修業中には毎夜未明に腰に瓢箪を巻きつけて念仏を唱え、鉢を叩き、和讃を唱えつつ踊りながら街中をデモンストレーションした。空也僧は念仏宗の優婆塞であったから在家の信者たちであった。ゆえに、「弥兵衛とは知れどあわれや鉢叩き蟻道『句兄弟』)というような具合でもあった。
 さて、一句はK、K、Kの引き締まった音感が寒中の引き締まった空気を連想させて実に清潔の印象を与える。「乾鮭」と「空也」とは「痩せ」と「寒の中」で連結されているだけで、それ以上の意味はないにもかかわらず、大きなスケールを感じさせる句ではある。芭蕉最高傑作のひとつ。
 なお、鉢叩きについては、芭蕉作品として「
長嘯の墓もめぐるか鉢叩き」、「納豆切る音しばし待て鉢叩き」 などがある。


奈良にある空也上人庵居の跡