芭蕉db
 

一枝軒

 良医玄随子ハ三度肘を折て、家を医し国を医す。
其居を名付て一枝軒といふ。是彼桂林の一枝の花に
もあらず、微笑一枝の花にも寄らず。南花真人の所
謂一巣一枝の楽ミ、偃鼠が腹を扣て、無何有の郷に
遊び、愚盲の邪熱をさまし、僻智小見の病を治せん
事を願ふらん。
 

世に匂へ梅花一枝のミそさ ヾい

(夏炉一路)

(よににおえ ばいかいっしの みそさざい)

散人 桃青 在印

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 貞亨2年。『野ざらし紀行』の旅中、奈良葛城の当麻村竹内の医師明石玄随宅にて。玄随の号が一枝軒。玄随を褒め称えた挨拶句。

世に匂へ梅花一枝のみそさざい

  一枝軒<いっしけん>の玄随の一枝はミソサザイが巣を作るといわれている梅の一枝のことであろう。しからば、梅の花が四囲に匂い立つように玄随の名声もまた広がることであろう。ミソサザイは藪の中に棲む渡り鳥の小鳥、羽は茶色で雀に似ているが雀よりはるかに小さい。小枝を渡り歩いて虫などを食す。