芭蕉db
  許六が木曽路に赴く時

旅人の心にも似よ椎の花

(続猿蓑)

(たびびとの こころにもによ しいのはな)

   木曽路を経て旧里に帰る人は、
   森川氏許六と云ふ。古より風
   雅に情けある人々は後に笈を懸
   け、草鞋に足をいため、破れ
   笠に霜露を厭うて、己れが心
   を責めて物の実を知る事を喜
   べり。今、仕官公けのために
   は長剣を腰にはさみ、垂懸の
   後に鑓を持たせ、徒歩若党の
   黒き羽織の裳裾は風に翻へし
   たりありさま、この人の本意
   にはあらず

椎の花の心にも似よ木曽の旅

(韻塞)

(しいのはなの こころにもによ きそのたび)

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 元禄6年5月6日、50歳。別れていく許六に贈った別離の詩。「憂き人の旅にも習へ木曽の蝿」と同じ。

旅人の心にも似よ椎の花

  今頃木曽の山中では椎の花がひっそりと咲いていることであろう。この花の侘びた姿が旅行く人の心を慰めてくれたらよいのに。
 「
椎の花の心にも似よ木曽の旅」が初案であり、芭蕉自身は、「憂き人の旅にも習へ木曽の蝿」も同じ作品として扱っていた。