芭蕉db
   伊賀の城下にうにと言ふものあり。
   悪臭き香なり

香に匂へうに掘る岡の梅の花

(有磯海)

(かににおえ うにほるおかの うめのはな)

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 貞亨5年春。『笈の小文』で伊賀で年を越して、その春梅の咲くころの作。ところで、伊賀の山中ではうに(泥炭=雲丹)が採掘されていた。燃やすと強い匂いがするが、これを悪臭というかどうかは主観の問題だろう。やがて石炭が蒸気機関の燃料になるころには、この匂いは近代化の「文明の匂い」だったのではないだろうか。 

香に匂へうに掘る岡の梅の花

 泥炭の悪臭にもかかわらず、ここにも梅の花が咲いている。「うに」の匂いを打ち消すように馥郁たる香りを振りまいてくれ。なお、「うに」はこの地方の方言である。
 『横日記』・『蕉翁文集』・『芭蕉翁発句集』では、前書は次のようになっている:

  伊陽山家に、うにといふ物有り。土の底より
  掘り出でて薪とす。石にもあらず、木にもあ
  らず、黒色にしてあしき香あり。そのかみ高
  梨野也是をかがなべて曰く、本草に石炭と云
  ふ物侍る。いかに云ひ伝へて、この国にのみ
  焼きならはしけん、いと珍し。

 なお、高梨野也<たかなしやや>は、京都の医師で俳人。「かがなべて」は指折り数えての意味であるから、ここでは用語を誤用しているか、転写ミスかであろう。本草は『本草綱目』のこと


三重県上野市菖蒲池市場寺にて(牛久市森田武さん撮影)