芭蕉DB

野ざらし紀行

(年の暮)


 爰に草鞋をとき、かしこに杖を捨て、旅寝ながらに年の暮ければ、

年暮ぬ笠きて草鞋はきながら

(としくれぬ かさきてわらじ はきながら)

といひいひも、山家に年を越て*

誰が聟ぞ歯朶に餅おふうしの年

(たがむこぞ しだにもちおう うしのとし)


前へ 次へ

表紙 年表


年暮ぬ笠きて草鞋はきながら

  蕪村は、「笠着て草鞋はきながら、芭蕉去てそののちいまだ年暮れず」との句を詠んでいる。芭蕉も良いが蕪村も良い。それほどにこの句は良い。

誰が聟ぞ歯朶に餅 おふうしの年

  この地方では、年始に新妻の実家に羊歯を添えた鏡餅を贈る風習があった。丑年の春、牛の背中にその鏡餅を載せて、牛を追いたてて行く若い婿の姿は、芭蕉にとって久しぶりに見る懐かしい光景だったのであろう。のどかな句。