芭蕉DB

野ざらし紀行

(二月堂お水取り)


奈良に出る道のほど

春なれや名もなき山の薄霞

(はるなれや なもなきやまの うすがすみ)

二月堂に籠りて*

水とりや氷の僧の沓の音

(みずとりや こおりのそうの くつのおと)


前へ 次へ

表紙 年表


春なれや名もなき山の 薄霞

 結句を「朝霞」とする本もある。二月堂参篭のために伊賀を発って奈良へ向かう、その途中吟。伊賀は盆地ゆえ、何処へ行くにも峠を越えなければならない。冬だ冬だと思っていたのにお水取りの頃ともなると春の気が立ってくる。それが朝霞となってディスプレイされる。

 三重県上野市長田の旧奈良街道にて(撮影:牛久市森田武さん。前回、3月に行った撮影旅行の時は、旧奈良街道筋を大分探しましたが、この句碑は見つかりませんでした。今回、伊賀上野の芭蕉記念館のご協力で所在地が判り、「旧奈良街道筋」で撮影しました。2003.0819)


二月堂からみた東大寺大仏殿など

水とりや氷の僧の沓の音

「春なれや」とはいっても、三寒四温。お水取りの僧の沓の音は寒夜に響いて、季節は一進一退している。「お水取り」は二月堂修二会(しゅにえ)の主要行事。 「氷の僧」というので、僧侶の下駄に氷が張っているような寒々しい情景を想像しがちだが、旧暦の二月はもはや「春なれや」であることにかわりはない。「如月の望月」の頃には桜が咲いたのであるから。
 なお、『芭蕉翁發句集』などでは「水とりやこもりの僧の沓の音」とある。また、『芭蕉句選』では「水鳥や氷の僧の沓の音」とあるが、これ らはいずれも杜撰。


初夏の二月堂風景。右隣に三月堂、正面方向に四月堂がある。


二月堂にあった句碑(牛久市森田武さん撮影