芭蕉DB

野ざらし紀行

(序)


 千里に旅立て、路糧をつゝまず、三更月下無何に入る*と 云けむ、むかしの人の杖にすがりて、貞亨甲子*秋八月江上の破屋をいづる程、風の聲そヾろ寒氣也。

野ざらしを心に風のしむ身哉

(のざらしを こころにかぜの しむみかな)

秋十とせ却て江戸を指古郷

(あきととせ かえってえどを さすこきょう)


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表紙 年表


野ざらしを心に風のしむ身哉

 冒頭の一文といい、芭蕉のこの旅にかける想いは並々ならぬものがあった。悲壮感と気負いとが吐露され、それが「野ざらし」の表題ともなっている。旅の進行とともに肩の力は抜けていくが、芭蕉俳諧に一大転機をもたらした旅でもあった。なお、この旅の目的には、昨年みまかった伊賀上野の母の追善のための里帰りも含まれていた。


「野ざらしを・・」の句碑 (牛久市森田武さん提供)

 野ざらし紀行の「序」と「おわり」の句碑は、本来なら東京近郊に有れば良いのですが、深川の芭蕉記念館等に問い合わせて調査しましたが、都内近辺には有りませんでした。もともと無かったのか、又は関東大震災や東京空襲によって消失したか判りません。上の句碑は、伊賀上野の「ふるさとの森芭蕉記念館」で撮影したものです。(森田)

秋十とせ却て江戸を指古郷

 江戸の門弟ら大勢の見送りのもの達への別れの挨拶吟。江戸を故郷と思うことで江戸在住の弟子たちへの心配りをしたか。