芭蕉DB
野ざらし紀行
(箱根越え)
関こゆる日は、雨降て、山皆雲にかくれたり。
雰しぐれ富士をみぬ日ぞ 面白き
(きりしぐれ ふじをみぬひぞ おもしろき)
何某ちり
*
と 云けるは、此たびみちのたすけとなりて、萬いたはり心を盡し侍る。常に莫逆の交ふかく
*
、朋友信有哉此人。
深川や芭蕉を富士に預行 ちり
(ふかがわや ばしょうをふじに あずけゆく)
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表紙
年表
雰しぐれ富士をみぬ日ぞ面白き
この旅は、定型から脱し、芭蕉芸術を確立していく過程。定型にならざるを得ない富士の景色は敬して遠ざけたいところだが、幸い今日の富士は霧しぐれの中に隠れている。それにしても芭蕉ほど富士を読まない歌人も少ないのではないか。それでいて、目には見えない富士が芭蕉の心にははっきりと見えてもいる。
箱根仙石原冠峰楼にある句碑(牛久市森田武さん撮影)
何某ちり:
人名集参照
莫逆の交り深く:<ばくげきのまじわり>と読む。意気投合して極めて親密なさまをいう。