芭蕉db

春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏り

(炭俵)

(はるさめや はちのすつたう やねのもり)

句集へ 年表へ Who'sWhoへ


 元禄7年、51歳。深川の芭蕉庵での作。「春雨」の静けさとさみしさを詠った最高傑作の一句。下地に、大僧正行慶の歌「つくづくと春のながめの寂しきはしのぶにつたふ軒の玉水」(『新古今和歌集』)がある。「しのぶ=忍」を「蜂の巣」に置き換えたところが俳諧。

春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏り

 春雨が静かに降っている。庵の傷んだ屋根から、軒下に昨年の夏作られたちっぽけな蜂の巣があってそこを伝って雨滴が落ちてくる。静かな春の時間がここにはある。
 野坡書簡に、「この蜂の巣は、去年の巣の草庵の軒に残りたるに、春雨の伝ひたる静かさ、面白くいひとりたる、深川の庵の体そのままにて、幾度も落涙致し候」とあるのは正鵠を射た解釈である。