芭蕉db
  その年の冬

有明も三十日に近し餅の音

(真蹟自画賛)

(ありあけも みそかにちかし もちのおと)

月代や晦日に近き餅の音

(芭蕉翁行状記)

(つきしろやみそかにちかきもちのおと)

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 元禄6年、50歳。江戸での最後の「年の瀬」。

有明も三十日に近し餅の音

 月は有明の晦日の月、あちらこちらから餅つきの音が聞こえてくる。こうして今年も暮れて行く。
 この句は、兼好法師の歌「
ありとだに人に知られぬ身のほどやみそかに近き有明の月」(『兼好法師集』)が念頭にあっての作と思われる。ただし、兼好法師の歌は必ずしも年の暮の大晦日を指してはいない。
 ところで、芭蕉にとって人生最後の年の瀬の感慨でもあった。翌年は餅つきの音を聞くことも無くこの世を去ったから、これは本当の晦日であったのである。