芭蕉db
  庵に掛けんとて、句空が書かせけ
  る兼好の絵に

秋の色糠味噌壷もなかりけり

(柞原集)

(あきのいろ ぬかみそつぼも なかりけり)

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 元禄4年、48歳。膳所義仲寺での作。この作成の経緯は、句空宛書簡に詳しい。なお、句空は『草庵集』に、「(この)句は兼好の賛とて書きたまへるを、常は庵の壁に掛けて対面の心地し侍り。先年義仲寺にて翁の枕もとに臥したるある夜、うちふけて我を起さる。何事にか、と答へたれば、あれ聞きたまへ、きりぎりすの鳴き弱りたる、と。かかる事まで思ひ出だして、しきりに涙のこぼれ侍り。」と回顧している。

秋の色糠味噌壷もなかりけり

 詞書にあるように、句空が『徒然草』をテーマにした絵を持参し、それに讃を入れた。絵には、質素を旨とする兼行法師の庵が描かれ、それに糠味噌壷も描かれてはいなかったのであろう。徒然草では、「糂汰瓶<じんだがめ>」と書いているのを俗語で「糠味噌壷」と表現したところが、俳諧である。この頃、芭蕉は強く『徒然草』またはその作者へ傾倒していく。
淋しさや釘に掛けたるきりぎりす」と同じ動機で作句された。