芭蕉db

これや世の煤に染まらぬ古合子

(俳諧勧進牒)

(これやよの すすにそまらぬ ふるごうし)

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 元禄2年12月。膳所。

これや世の煤に染まらぬ古合子

 路通の編纂による『俳諧勧進牒』には、次ぎのような前詞がついている。
 「筑紫のかたにまかりし比、頭陀に入れし五器一具、難波津の旅亭に捨てしを破らず、七年の後、湖上の粟津迄送りければ、是をさへ過ぎしかたをおもひ出だして哀なりしままに、翁へ此の事物語し侍りければ」
 ここに「五器」は御器、蓋付きのお椀のような器のこと。合子・盒子ともいう。路通が筑紫に行くというので大坂に頭陀袋に食器を入れて預けておいたところ、後にその旅館の主人から粟津迄それを届けてくれた、という話を芭蕉に話したところ、芭蕉がこの句を詠んだというのである。この種の親切は、この時代にあっても稀有なことであったのであり、それだけに「有り難い」話だったのである。
 一句は、煤に染まらぬ(インモラルに流されない)親切と、無事に帰ってきた器をかけている。