芭蕉db

杵の折れ

(制作年代不詳)


 此の「杵の折れ」と名付くるものは、上つ方に愛でさせたまひ*、かしこく扶桑の奇物となれり*。汝、いづれの山に生ひ出でて、いづれの里の賎が碪の形見なるぞや*。昔は横槌たり*。今は花入と呼びて、貴人頭上の具に名を改む*。下れるものは上り、上なるものは必ず下るといへり。人またかくのごとし。高きに居て驕るべからず。低きにありて恨むべからず。ただ世の中は横槌なるべし*

この槌のむかし椿か梅の木か

(このつちの むかしつばきか うめのきか)

(粟津文庫抄)

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 貞亨元年(41歳頃)頃から死の元禄7年(51歳)までの間に執筆。

この槌のむかし椿か梅の木か

 この杵の折れという名の花入れは、元を正せばどこかの山人の砧や藁を打つ横槌に過ぎなかったもの。その昔をたどれば椿の木か梅木だったのだろう。しかし今では、有閑人に愛でられてなんとこうして茶室の花入れになってしまった。人生もこれと同じ、どう流転することやら分かったものではない。