芭蕉db

西か東かまづ早苗にも風の音

(何云宛真蹟書簡)

(にしかひがしか まずさなえにも かぜのおと)

   みちのくの名所名所、心に思
   ひこめて、まづ関屋の跡懐か
   しきままに古道にかかり、い
   まの白河も越えぬ

早苗にも我が色黒き日数哉

(曾良書留)

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 元禄2年4月。『奥の細道』旅中、白河の関にて。白河といえば「都をば霞と共に立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」であり、ここではまず「風の音」を意識する。

西か東かまづ早苗にも風の音

 生まれて初めての奥羽に足を踏み入れたのだから、土地感がなく西も東も分からない。しかし、昔、能因法師が詠んだ歌「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」であってみれば、いま季節は初夏とはいえ早苗の上を通りすぎる風はあの風だ。

早苗にも我が色黒き日数哉

 早苗を見るにつけても江戸をたってからの日数の多さが日焼けとともに偲ばれる、というのであるが、「色黒き」にはもう少し意味がある。能因法師は上記の歌を京の都のコタツ?の中で詠んだ。そこでいかにも白河の関まで行ったように見せかけるために、陽に当って肌を黒くした、という伝説がある。一句はこれを引用したのである。


福島県白河市旭町「宗祇もどし」の句碑。牛久市森田武さん提供。