芭蕉俳句全集

(地域別順)

芭蕉が作句した場所。()は、そこで詠んだのではないが対象となった地域


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(revised on 2013/09/15


秋田

象潟や雨に西施が合歓の花
汐越や鶴脛ぬれて海涼し
夕晴れや桜に涼む波の華

岩手

五月雨の降り残してや光堂
夏草や兵どもが夢の跡

蛍火の昼は消えつつ柱かな

山形

蚤虱馬の尿する枕もと(宮城も)
暑き日を海にいれたり最上川
あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ
ありがたや雪をかをらす南谷
風の香も南に近し最上川
語られぬ湯殿にぬらす袂かな
雲の峰いくつ崩れて月の山
五月雨を集めて早し最上川
閑さや岩にしみ入蝉の声
涼しさやほの三日月の羽黒山
涼しさをわが宿にしてねまるなり
その玉や羽黒にかへす法の月
月か花か問へど四睡が鼾哉
当帰よりあはれは塚の菫草
這ひ出よ飼屋が下の蟾の声
初真桑四つにや断たん輪に切らん

眉掃を俤にして紅粉の花

水の奥氷室尋ぬる柳哉

めづらしや山を出羽の初茄子

宮城

あやめ草足に結ばん草鞋の緒
笠島はいづこ五月のぬかり道
桜より松は二木を三月越し

島々や千々に砕きて夏の海
蚤虱馬の尿する枕もと(山形も)

福島

笈も太刀も五月に飾れ紙幟
早苗とる手もとや昔しのぶ摺
五月雨は滝降り埋むみかさ哉
関守の宿を水鶏に問はうもの
西か東かまづ早苗にも風の音
風流の初めや奥の田植歌
世の人の見付けぬ花や軒の栗

栃木

あらたふと青葉若葉の日の光
石の香や夏草赤く露暑し
糸遊に結びつきたる煙哉
入逢の鐘もきこえず春の暮
入りかかる日も糸遊の名残かな
落ち来るや高久の宿の郭公
鐘撞かぬ里は何をか春の暮
木啄も庵は破らず夏木立
しばらくは瀧にこもるや夏の初め
剃り捨てて黒髪山に衣更
夏山に足駄を拝む首途かな
野を横に馬引き向けよほととぎす
田一枚植ゑて立ち去る柳かな
田や麦や中にも夏のほととぎす
鶴鳴くやその声に芭蕉破れぬべし
ほととぎす裏見の滝の裏表
秣負う人を枝折の夏野哉
山も庭に動き入るるや夏座敷
湯をむすぶ誓ひも同じ石清水

茨城

芋の葉や月待つ里の焼畑
刈りかけし田面の鶴や里の秋
この松の実生えせし代や神の秋
賎の子や稲摺りかけて月を見る
月はやし梢は雨を持ちながら
寺に寝てまこと顔なる月見かな
萩原や一夜はやどせ山の犬

東京

青くてもあるべきものを唐辛子
青ざしや草餅の穂に出でつらん
青柳の泥にしだるる潮干かな
秋風に折れて悲しき桑の杖
秋来にけり耳を訪ねて枕の風
秋来ぬと妻恋ふ星や鹿の革
秋十年却って江戸を指す故郷
秋に添うて行かばや末は小松川
明け行くや二十七夜も三日の月
朝顔に我は飯食う男哉
朝夜さを誰がまつしまぞ片心
紫陽花や薮を小庭の別座舗
明日は粽難波の枯葉夢なれや
雨の日や世間の秋を堺町
雨折々思ふことなき早苗哉
鮎の子の白魚送る別れ哉
有明も三十日に近し餅の音
生きながら一つに氷る海鼠かな
いづく時雨傘を手に提げて帰る僧
五つ六つ茶の子にならぶ囲炉裏哉
いでや我よき布着たり蝉衣
色付くや豆腐に落ちて薄紅葉
魚鳥の心は知らず年忘れ
鶯や餅に糞する縁の先
鶯や柳のうしろ薮の前
鶯を魂にねむるか矯柳
埋火や壁には客の影法師
うたがふな潮の花も浦の春
打ち寄りて花入探れ梅椿
卯の花も母なき宿ぞ冷じき
梅が香に追ひもどさるる寒さかな
梅が香にのつと日の出る山路哉
梅が香に昔の一字あはれなり
梅柳さぞ若衆かな女かな
瓜作る君があれなと夕涼み
瓜の花雫いかなる忘れ草
叡慮にて賑わふ民の庭竈
艶ナル奴今様花に弄斎ス
老の名のありとも知らで四十雀
御命講や油のような酒五升
おもしろや今年の春も旅の空
影待や菊の香のする豆腐串
かげろふの我が肩に立つ紙子かな
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき
鰹売りいかなる人を酔はすらん
傘に押し分けみたる柳かな
香を残す蘭帳蘭のやどり哉
寒菊や醴造る窓の前
元日は田毎の日こそ恋しけれ
菊鶏頭切り尽しけり御命講
木曽の痩せもまだなほらぬに後の月
今日ばかり人も年寄れ初時雨
金屏の松の古さよ冬籠り
草の戸も住み替る代ぞ雛の家
葛の葉の面見せけり今朝の霜
九たび起きても月の七ツ哉
雲をりをり人をやすめる月見かな
今朝の雪根深を園の枝折哉
紅梅や見ぬ恋作る玉簾
子供等よ昼顔咲きぬ瓜剥かん
この梅に牛も初音と鳴きつべし
この心推せよ花に五器一具
米買ひに雪の袋や投頭巾
西行の庵もあらん花の庭
盃に三つの名を飲む今宵かな
盛りぢや花に坐浮法師ぬめり妻
さし籠る葎の友か冬菜売り
座頭かと人に見られて月見哉
五月雨に鶴の足短くなれり
五月雨や桶の輪切るる夜の声
寒からぬ露や牡丹の花の蜜
塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店
時雨をやもどかしがりて松の雪
篠の露袴に掛けし茂り哉
白魚や黒き目を明く法の網
白露もこぼさぬ萩のうねり哉
白炭やかの浦島が老の箱
水学も乗り物貸さん天の川
煤掃は己が棚つる大工かな
節季候の来れば風雅も師走哉
節季候を雀の笑ふ出立かな
芹焼や裾輪の田井の初氷
蒼海の浪酒臭し今日の月
草履の尻折りて帰らん山桜
袖の色よごれて寒し濃鼠
その形見ばや枯れ木の杖の長
旅人とわが名呼ばれん初しぐれ
旅人の心にも似よ椎の花
手向けけり芋は蓮に似たるとて
誰やらがかたちに似たり今朝の春
地に倒れ根に寄り花の別れかな
散る花や鳥も驚く琴の塵
月十四日今宵三十九の童部
月白き師走は子路が寝覚め哉
月花もなくて酒のむ独り哉

月やその鉢木の日のした面
鶴の毛の黒き衣や花の雲
庭訓の往来誰が文庫より今朝の春
天秤や京江戸かけて千代の春
唐黍や軒端の萩の取りちがえ
年々や猿に着せたる猿の面

年の市線香買ひに出でばやな

永き日も囀り足らぬひばり哉
なかなかに心をかしき臘月哉

夏衣いまだ虱を取り尽さず
七株の萩の千本や星の秋
何ごとも招き果てたる薄哉
難波津や田螺の蓋も冬ごもり
盗人に逢うた夜もあり年の暮れ
涅槃会や皺手合する数珠の音
野ざらしを心に風のしむ身かな
呑み明けて花生にせん二升樽
八九間空で雨降る柳かな
花咲きて七日鶴見る麓哉
花にうき世我が酒白く飯黒し
花に酔へり羽織着て刀さす女
花見にと指す船遅し柳原
葉にそむく椿の花やよそ心
春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏り
春雨や蓬をのばす艸の道
春立つや新年ふるき米五升
腫物に触る柳の撓哉
東西あはれさひとつ秋の風
一時雨礫や降って小石川
一とせに一度摘まるる薺かな
二人見し雪は今年も降りけるか
冬籠りまた寄りそはんこの柱
古巣ただあはれなるべき隣かな
蓬莱に聞かばや伊勢の初便
見しやその七日は墓の三日の月
皆拝め二見の七五三を年の暮
皆出でて橋を戴く霜路哉
都出でて神も旅寝の日数哉
見渡せば詠むれば見れば須磨の秋
武蔵野の月の若生えや松島種
武蔵野やさはるものなき君が傘
葎さへ若葉はやさし破れ家
名月の出ずるや五十一ヶ条
餅を夢に折り結ぶ歯朶の草枕
痩せながらわりなき菊のつぼみ哉
やまぶきの露菜の花のかこち顔なるや
山吹や笠に挿すべき枝の形
闇の夜きつね下はふ玉真桑
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて
夕顔や酔うて顔出す窓の穴
行く秋や身に引きまとふ三布蒲団
行く雲や犬の駆け尿村時雨
行く春や鳥啼き魚の目は泪
四つ五器のそろはぬ花見心哉
留守のまに荒れたる神の落葉哉
炉開きや左官老い行く鬢の霜
我がためか鶴食み残す芹の飯
わが宿は四角な影を窓の月
忘れずば小夜の中山にて涼め
我も神のひさうや仰ぐ梅の花

新潟

荒海や佐渡によこたふ天河
小鯛插す柳涼しや海士が家
一家に遊女もねたり萩と月
文月や六日も常の夜には似ず
薬欄にいづれの花を草枕

長野

あの中に蒔絵書きたし宿の月
十六夜もまだ更科の郡かな

送られつ別れつ果ては木曽の秋

思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
俤や姥ひとり泣く月の友
桟橋や命をからむ蔦葛

桟や先づ思い出づ駒迎へ
元日は田毎の日こそ恋しけれ
木曽の橡浮世の人の土産かな

木曽の痩せもまだなほらぬに後の月
月影や四門四宗もただ一つ
ひよろひよろと尚露けしや女郎花

吹き飛ばす石は浅間の野分かな

身にしみて大根からし秋の風
雪散るや穂屋の薄の刈り残し

山梨県

馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな
山賎のおとがひ閉づる葎かな

行く駒の麦に慰むやどりかな

神奈川

鶯や竹の子薮に老を鳴く
霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき
霜を踏んでちんば引くまで送りけり

どんみりと樗や雨の花曇り
松なれや霧えいさらえいと引くほどに
麦の穂を便りにつかむ別れかな
目にかかる時やことさら五月富士

静岡

馬方は知らじ時雨の大井川
梅若菜丸子の宿のとろろ汁
五月雨の空吹き落せ大井川
猿を聞く人捨子に秋の風いかに
駿河路や花橘も茶の匂ひ
たわみては雪待つ竹の気色かな
苣はまだ青葉ながらに茄子汁
道のべの木槿は馬に食はれけり
忘れずば小夜の中山にて涼め

愛知

いざ共に穂麦喰はん草枕
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
市人よこの笠売らう雪の笠
団扇もてあふがん人のうしろむき
馬をさえ眺むる雪の朝かな
海暮れて鴨の声ほのかに白し
梅恋ひて卯の花拝む涙かな
思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
杜若われに発句の思ひあり
刈り跡や早稲かたかたの鴫の声
狂句木枯しの身は竹斎に似たるかな
京まではまだ半空や雪の雲
水鶏啼くと人のいへばや佐屋泊り
草枕犬も時雨るるか夜の声
この海に草鞋捨てん笠時雨
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき
さればこそ荒れたきままの霜の宿
白芥子に羽もぐ蝶の形見かな
しのぶさへ枯れて餅買ふやどりかな
水仙や白き障子のとも移り
涼しさを飛騨の工が指図かな
その匂ひ桃より白し水仙花
鷹一つ見付けてうれし伊良湖崎
旅に飽きてけふ幾日やら秋の風
旅寝よし宿は師走の夕月夜
ためつけて雪見にまかる紙子かな
月華の是やまことのあるじ達
露凍てて筆に汲み干す清水哉
磨ぎなほす鏡も清し雪の花
鳥刺も竿や捨てけんほととぎす
箱根こす人も有るらし今朝の雪
粟稗にとぼしくもあらず草の庵
二人見し雪は今年も降りけるか
船足も休む時あり浜の桃
冬の日や馬上に凍る影法師
星崎の闇を見よとや啼く千鳥

牡丹蘂深く分け出づる蜂の名残かな
見送りのうしろや寂し秋の風
雪と雪今宵師走の名月か
世を旅に代掻く小田の行きもどり

岐阜

秋風や薮も畠も不破の関
朝顔は酒盛知らぬ盛り哉
埋火も消ゆや涙の烹ゆる音
梅が香に昔の一字あはれなり
送られつ別れつ果ては木曽の秋
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな
隠れ家や月と菊とに田三反
香を探る梅に蔵見る軒端かな
草いろいろおのおの花の手柄かな
苔埋む蔦のうつつの念仏哉
胡蝶にもならで秋経る菜虫哉
籠り居て木の実草の実拾はばや
西行の草鞋もかかれ松の露

篠の露袴に掛けし茂り哉

死にもせぬ旅寝の果てよ秋の暮
城跡や古井の清水まづ訪はん
そのままよ月もたのまじ伊吹山
撞鐘もひびくやうなり蝉の声
作りなす庭をいさむる時雨かな
夏来てもただひとつ葉の一葉かな
鳩の声身に入みわたる岩戸哉
蛤のふたみにわかれ行秋ぞ
早く咲け九日も近し菊の花
藤の実は俳諧にせん花の跡
又やたぐひ長良の川の鮎鱠
もろき人にたとへん花も夏野哉
義朝の心に似たり秋の風

三重

秋の風伊勢の墓原なほ凄し
あけぼのや白魚白きこと一寸

芋洗ふ女西行ならば歌詠まむ
芋植ゑて門は葎の若葉かな
憂きわれを寂しがらせよ閑古鳥
うたがふな潮の花も浦の春
梅の木に猶宿り木や梅の花
御子良子の一本ゆかし梅の花
徒歩ならば杖突坂を落馬かな
神垣や思ひもかけず涅槃像
紙衣の濡るとも折らん雨の花
この山のかなしさ告げよ野老掘
硯かと拾ふやくぼき石の露
旅寝して見しやうき世の煤はらい
月さびよ明智が妻の話せむ
蔦植ゑて竹四五本の嵐かな
尊さに皆おしあひぬ御遷宮
何の木の花とはしらず匂かな
裸にはまだ衣更着の嵐かな
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
三十日月なし千年の杉を抱く嵐
皆拝め二見の七五三を年の暮
物の名を先づ問ふ蘆の若葉かな
門に入れば蘇鉄に蘭のにほひ哉
蘭の香や蝶の翅に薫物す

故郷伊賀

秋風の遣戸の口やとがり声
あこくその心も知らず梅の花
家はみな杖に白髪の墓参り
いざ子供走りありかん玉霰
稲妻や闇の方行く五位の声
命二つの中にいきたる桜かな
岩躑躅染むる涙やほととぎ朱
植うる事子のごとくせよ児桜
鶯の笠落したる椿かな
姥桜咲くや老後の思ひ出
小野炭や手習ふ人の灰ぜせり
顔に似ぬ発句も出でよ初桜
影は天の下照る姫か月の顔
風色やしどろに植ゑし庭の秋
数ならぬ身とな思ひそ玉祭
香に匂へうに掘る岡の梅の花
枯芝ややや陽炎の一二寸
菊の香や奈良には古き仏達
木のもとに汁も膾も桜かな
きりぎりす忘れ音に啼く火燵哉
けふの今宵寝る時もなき月見哉
雲とへだつ友かや雁の生き別れ
この種と思ひこなさじ唐辛子
このほどを花に礼いふ別れ哉
今宵誰吉野の月も十六里
盛りなる梅にす手引く風もがな
里古りて柿の木持たぬ家もなし
五月雨に御物遠や月の顔
さまざまのこと思ひ出す桜かな
萎れ伏すや世はさかさまの雪の竹
しぐるるや田の新株の黒むほど
柴付けし馬のもどりや田植樽
霜枯に咲くは辛気の花野哉
丈六に陽炎高し石の上
新藁の出初めて早き時雨哉
菜畠に花見顔なる雀哉
似合はしや豆の粉飯に桜狩り
子の日しに都へ行かん友もがな
畑打つ音や嵐の桜麻
初桜折りしも今日はよき日なり
初時雨猿も小蓑を欲しげなり
初雪に兎の皮の髭作れ
花に明かぬ嘆きや我が歌袋
花は賎の目にも見えけり鬼薊
春雨や二葉に萌ゆる茄子種
春たちてまだ九日の野山かな
春立つとわらはも知るや飾り縄
春なれや名もなき山の朝霞
一里はみな花守の子孫かや
人々をしぐれよ宿は寒くとも
百里来たりほどは雲井の下涼み
屏風には山を画書いて冬籠り
富士の風や扇にのせて江戸土産

二日にもぬかりはせじな花の春
冬庭や月もいとなる虫の吟
降る音や耳も酸うなる梅の雨
旧里や臍の緒に泣く年の暮
蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声
見るに我も折れるばかりぞ女郎花
名月の花かと見えて綿畠
名月に麓の霧や田の曇り
山里は万歳遅し梅の花
夕顔に見とるるや身もうかりひよん
行く秋や手をひろげたる栗の毬
我に似るなふたつに割れし真桑瓜

富山

早稲の香や分け入る右は有磯海

石川

あかあかと日はつれなくも秋の風
秋涼し手ごとにむけや瓜茄子
漁り火に鰍や浪の下むせび
石山の石より白し秋の風
うらやまし浮世の北の山桜
今日よりや書付消さん笠の露
熊坂がゆかりやいつの玉祭
しほらしき名や小松吹萩すすき
塚も動けわが泣く声は秋の風
庭掃いて出でばや寺に散る柳
濡れて行くや人もをかしき萩薄
むざんやな甲の下のきりぎりす
物書きて扇引さく余波哉
桃の木のその葉散らすな秋の風
山中や菊は手折らぬ湯の匂
湯の名残り幾度見るや霧のもと
湯の名残り今宵は肌の寒からん

福井

あさむつを月見の旅の明け離れ
明日の月雨占なはん比那が嶽
漁り火に鰍や浪の下むせび
国々の八景さらに気比の月
小萩散れますほの小貝小盃
衣着て小貝拾はん種の月
寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋
月いづく鐘は沈める海の底
月清し遊行の持てる砂の上
月に名を包みかねてや痘瘡の神
月のみか雨に相撲もなかりけり
月見せよ玉江の芦を刈らぬ先
中山や越路も月はまた命
波の間や小貝にまじる萩の塵
古き名の角鹿や恋し秋の月
名月や北国日和定めなき

名月の見所問はん旅寝せん
義仲の寝覚めの山か月悲し

滋賀県

秋近き心の寄るや四畳半
秋の色糠味噌壷もなかりけり
曙はまだ紫にほととぎす
朝茶飲む僧静かなり菊の花
海士の屋は小海老にまじるいとど哉
霰せば網代の氷魚を煮て出さん
石山の石にたばしる霰哉
稲妻に悟らぬ人の貴さよ
稲妻や顔のところが薄の穂
稲雀茶の木畠や逃げ処
猪もともに吹かるる野分かな
命二つの中にいきたる桜かな
牛部屋に蚊の声暗き残暑哉
梅若菜丸子の宿のとろろ汁
大津絵の筆のはじめは何仏
己が火を木々に蛍や花の宿
かくれけり師走の海のかいつぶり
風色やしどろに植ゑし庭の秋
辛崎の松は花より朧にて
獺の祭見て来よ瀬田の奥
君や蝶我や荘子が夢心
草の戸を知れや穂蓼に唐辛子
草枕まことの華見しても来よ
この宿は水鶏も知らぬ扉かな
薦を着て誰人います花の春
これや世の煤に染まらぬ古合子
盃の下ゆく菊や朽木盆
さざ波や風の薫の相拍子
五月雨に隠れぬものや瀬田の橋
皿鉢もほのかに闇の宵涼み
三尺の山も嵐の木の葉哉
四方より花吹き入れて鳰の波
少将の尼の話や志賀の雪
白髪抜く枕の下やきりぎりす
蕎麦も見てけなりがらせよ野良の萩
鷹の目も今や暮れぬと鳴く鶉
玉祭り今日も焼場の煙哉
月代や膝に手を置く宵の宿
月見する座に美しき顔もなし
躑躅生けてその陰に干鱈割く女
蝶も来て酢を吸ふ菊の鱠哉
たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠
夏草に富貴を飾れ蛇の衣
夏草や我先達ちて蛇狩らん
夏の夜や崩れて明けし冷し物
何にこの師走の市にゆく烏
蓮の香を目にかよはすや面の鼻
ひごろ憎き烏も雪の朝哉
人に家を買はせて我は年忘れ
ひやひやと壁をふまえて昼寝哉
病雁の夜寒に落ちて旅寝哉
ひらひらと挙ぐる扇や雲の峰
比良三上雪さしわたせ鷺の橋
蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声
蛍見や船頭酔うておぼつかな
先づ頼む椎の木も有り夏木立
湖や暑さを惜しむ雲の峰
道ほそし相撲取り草の花の露
飯あふぐ嬶が馳走や夕涼み
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声
山路来て何やらゆかし菫草
夕にも朝にもつかず瓜の花
行く春を近江の人と惜しみける
世の夏や湖水に浮む浪の上
我が宿は蚊の小さきを馳走かな

京都

朝露や撫でて涼しき瓜の土
有難き姿拝まんかきつばた
梅白し昨日や鶴を盗まれし
瓜の皮剥いたところや蓮台野
樫の木の花にかまはぬ姿かな
乾鮭も空也の痩も寒の中
川風や薄柿着たる夕涼み
清滝の水汲ませてやところてん
清滝や波に塵なき夏の月
京にても京なつかしやほととぎす
こちら向け我もさびしき秋の暮
柴の戸の月やそのまま阿弥陀坊
涼しさを絵にうつしけり嵯峨の竹
住みつかぬ旅の心や置炬燵
七夕や秋を定むる夜のはじめ
千鳥立ち更け行く初夜の日枝颪
長嘯の墓もめぐるか鉢叩き
納豆切る音しばし待て鉢叩き
荻の穂や頭をつかむ羅生門
半日は神を友にや年忘れ
松杉をほめてや風のかをる音
柳行李片荷は涼し初真桑
山城へ井出の駕籠借る時雨哉
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時
夕顔に干瓢むいて遊びけり
六月や峰に雲置く嵐山
わが衣に伏見の桃の雫せよ

奈良

凍て解けて筆に汲み干す清水哉

菊の香にくらがり登る節句かな
菊の香や奈良には古き仏たち
菊の香や奈良は幾世の男ぶり
碪打ちてわれに聞かせよ坊が妻
草臥れて宿かるころや頃や藤の花
御廟年経て偲ぶは何をしのぶ草
五月雨も瀬踏み尋ねぬ見馴河
僧朝顔幾死に返る法の松

楽しさや青田に涼む水の音

露とくとく試みに浮世すすがばや
奈良七重七堂伽藍八重ざくら
初雪やいつ大仏の柱立
花盛り山は日ごろの朝ぼらけ
春なれや名もなき山の朝霞
春の夜や籠り人ゆかし堂の隅
ぴいと啼く尻声悲し夜の鹿
水取りや氷の僧の沓の音
山桜瓦葺くものまづ二つ)
吉野にて桜みせうぞ檜笠
世に匂へ梅花一枝のみそさざい
綿弓や琵琶に慰む竹の奥
灌仏の日に生まれあふ鹿の子かな
若葉して御目の雫ぬぐはばや
鹿の角まづ一節のわかれかな
一つ脱いで後に負ひぬ衣がへ

大阪

秋の夜を打ち崩したる咄かな
秋深き隣は何をする人ぞ
秋もはやはらつく雨に月の形
猪の床にも入るやきりぎりす
おもしろき秋の朝寝や亭主ぶり
菊に出でて奈良と難波は宵月夜
菊の香にくらがり登る節句かな
この秋は何で年寄る雲に鳥
この道を行く人なしに秋の暮
白菊の目に立て見る塵もなし
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
月澄むや狐こはがる児の供
難波津や田螺の蓋も冬ごもり
升買うて分別替る月見哉
松風や軒をめぐって秋暮れぬ

兵庫

足洗うてつひ明けやすき丸寝かな
かたつぶり角振り分けよ須磨明石
須磨の浦の年取り物や柴一把
見渡せば詠むれば見れば須磨の秋