芭蕉db

奥の細道

尾花沢  元禄2年5月17日〜27日


 尾花沢にて清風*と云者を尋ぬ。かれは富るものなれども志いやしからず*。都にも折々かよひて、さすがに旅の情をも知たれば、日比とヾめて、長途のいたはり、さまざまにもてなし侍る*

 

涼しさを我宿にしてねまる也

(すずしさを わがやどにして ねまるなり)

 

這出よかひやが下のひきの声

(はいいでよ かいやがしたの ひきのこえ)

 

まゆはきを俤にして紅粉の花

(まゆはきを おもかげにして べにのはな)

 

蚕飼する人は古代のすがた哉   曾良*

(こがいする ひとはこだいの すがたかな)


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表紙 年表 bo24_03.gif (162 バイト)俳諧書留


 5月17日に昼過ぎに山形県尾花沢市鈴木清風宅に着いて一泊。
 5月18日は、小雨が降る。弘誓山養泉寺(写真)に移り、ここの風呂に昼間から入る。随分寛いだのであろう。
 5月19日。朝は晴れるが夕方小雨に変わる。
 5月20日。小雨。
 5月21日。朝は、東水宅へ招かれ、夜は沼沢所左衛門宅に招待される。清風宅宿泊。
 5月22日。俳人素英(村川伊左衛門)宅に招待される。
 5月23日。夜、歌調(歌川仁左衛門)宅に招待される。清風宅に宿泊。
 5月24日。大石田 一栄、高野平右衛門宅で歌仙。夜、一橋(田中藤十良)が寺でもてなしてくれる。
 5月25日。時々小雨。昼、俳諧の予定洪水騒ぎで中止。夜、仁左衛門宅より、「庚申待」(庚申<かのえさる>の夜には朝まで夜遊びをする風習があった)に招待される。
 5月26日。昼より遊川(沼沢所左衛門)宅に招かれる。小雨が降る。
 5月27日。天気良好。朝9時尾花沢を出発して立石寺へ向かう。


弘誓山養泉寺(写真提供:牛久市森田武さん2002年8月)

 

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涼しさをわが宿にしてねまるなり

 清風宅での手厚いもてなしへの感謝の句。「ねまる」は山形方言で、自分の家にいるような気のおけない寛ぎ方をいう。羽前赤倉の山中を越えてほっとした気分もこめた句。


尾花沢養泉寺にある「涼しさをわが宿にしてねまるなり」の句碑(写真提供:牛久市森田武さん2002年8月)

 

這ひ出よ飼屋が下の蟾の声

飼屋は養蚕小屋のこと。その蚕室の床下に大きなひき蛙がいる。これが野太い声で鳴いている。古来、ひき蛙の鳴く声は人を恋する情景描写に使われた。


水海道市亀岡報国寺境内の句碑(同上)

 

眉掃を俤にして紅粉の花

 尾花沢は紅花の特産地。紅の顔料は都に出て京紅となって女性の心を楽しませてくれる。この家の主人清風はその紅花の流通を生業としていた。


天童市下荻野旧山寺街道にある句碑(同上)