芭蕉db
   霊岸島に住みける人三人、更けて
   わが草の戸に入り来るを、案内す
   る人にその名を問へば、各々七郎
   兵衛となん申し侍るを、かの独酌
   の興に思ひ寄せて、いささか戯れ
   となしたり

盃に三つの名を飲む今宵かな

(真蹟懐紙)

(さかずきに みつのなをのむ こよいかな)

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 貞亨2年秋。名月の夜の芭蕉流「独酌」の句。存疑の部にあった句だが現在では芭蕉句として認知されている。

盃に三つの名を飲む今宵かな

  前詞があってよく分かる。盃が出てくるので仲秋の名月と見てよい。多分酔客であろうが、霊岸島からきたという三人が草庵にやってきた。この三人、霊岸島で月見をしてきたのであろう。聞けば三人とも七郎兵衛という名前だという。折りしも、自分も月見の独酌をやっていたところだから、たわむれにこの句を作ったというのである。
 李白の詩「月下独酌」では、李白は自身と盃に映った月影と月によって生じた己の影の三人で独酌をしているのだが、私は実物の3人の七郎兵衛を相手に独酌をしているところだ。李白の詩と同名三人の突然の客の闖入を面白がった軽快な句。