芭蕉db

あの雲は稲妻を待つたより哉

(阿羅野)

(あのくもは いなずまをまつ たよりかな)

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 貞亨5年秋。『笈の小文』の旅の後、『更科紀行』の直前三河辺りで詠んだ句か?

あの雲は稲妻を待つたより哉

 あの黒雲は、やがて稲妻を呼んで雨を招く雲なのであろう。
 ところで「稲妻」は、古くから稲は稲妻をうけて結実すると信じられていたことから「稲の夫<つま>」で、元来は女の許に通う男という意味がある。したがって、この句にはこういうテキスト理解を言外に隠しながら、しかももう一ひねりしてちゃっかりと実景を嘱目吟として詠んでいるのであろう。芭蕉の言語理解の深さを示す一句。