芭蕉db
   猫妻恋

猫の妻竃の崩れより通ひけり

(六百番俳諧発句合)

(ねこのつま へっついのくずれより かよいけり)

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 延宝5年、芭蕉34歳の時の作。芭蕉は、この年に俳諧宗匠として立机(プロの俳諧師になること)したらしい。この年22句が現存する。

猫の妻竃の崩れより通ひけり

  『伊勢物語』5段、「むかし男ありけり。ひむがしの五条わたりにいと忍びていきけり」で始まる話には、男が「わら わべのふみあけたる築泥<ついじ>のくづれより通ひけり。」というわけで、女のもとに門を入らず築地の破れから通った話が出てくる。一句は、この王朝文学の主人公を猫の妻に置き換え、破れ築地をへっついに変えることで笑っている。

伊勢物語 (5)

 
  むかし男ありけり。ひむがしの五条わたりに いと忍びていきけり。みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、わらわべのふみあけたる築泥のくづれより通ひけり。人しげくもあらねど、たびかさなりければ、あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人をすゑて、まもらせければ、いけどもえ逢はでかへりけり。さてよめる。
 

人しれぬわが通ひ路の関守は

   よひよひごとにうちも寝ななむ

とよめりければ、いといたう心やみけり。あるじゆるしてけり。
二條の后に忍びてまゐりけるを、世の聞えありければ、兄たちのまもらせ給ひけるとぞ。