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芭蕉db
老慵
(続虚栗)
(かきよりは のりをばおいの うりもせで)
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貞亨4年春。
『去来抄』に、「去来曰く、古事古歌を取るには、本歌を一段すり上げて作すべし、喩へば、『蛤よりは石花<かき>を売れかし』といふ西行の歌を取りて、『かきよりは海苔をば老の売りはせで』と先師の作あり。本歌は、同じ生物を売るともかきを売れ、石花は看経<かんきん>の二字に叶ふといふを、先師は生物を売らんより海苔を売れ、海苔は法
<のり>にかなふと、一段すりあげて作り給ふなり。『老』の字力あり」とある。
なお、ここにある西行の歌とは、「おなじくはかきをぞ刺して乾しもすべき蛤よりは名もたよりあり」を指している。
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牡蠣よりは海苔をば老の売りもせで
天秤棒をかついで商いをしている老人を見るにつけ、牡蠣<かき>のような重いものを担いで商いをしなくても、海苔のような軽いものを担いで売ったらよさそうなものを。海苔なら法に通じて年寄りにはなおよいであろうに。芭蕉自ら、世俗の栄華を捨てて深川に隠遁してしまったのであって、その意味では自身も海苔よりも牡蠣を売って歩いていたのではないか。そういう感慨も一句には込められているのである。
なお、詞書の「老慵<ろうしょう>」年を取ってもの憂くなることをいう。
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