芭蕉俳句全集
(制作年代順)
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元禄年間
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五十音順へ 季題別順へ 主題別順へ 地域別順へ
年表へ 芭蕉db
元禄元年
菊鶏頭切り尽しけり御命講
冬籠りまた寄りそはんこの柱
五つ六つ茶の子にならぶ囲炉裏哉
その形見ばや枯れ木の杖の長
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき
埋火も消ゆや涙の烹ゆる音
二人見し雪は今年も降りけるか
米買ひに雪の袋や投頭巾
さし籠る葎の友か冬菜売り
皆拝め二見の七五三を年の暮
元禄2年
剃り捨てて黒髪山に衣更
しばらくは瀧にこもるや夏の初め
ほととぎす裏見の滝の裏表 ほととぎす隔つか滝の裏表
秣負う人を枝折の夏野哉
山も庭に動き入るるや夏座敷
木啄も庵は破らず夏木立
木啄も庵は食らはず夏木立
田や麦や中にも夏のほととぎす
夏山に足駄を拝む首途かな 夏山や首途を拝む高足駄
鶴鳴くやその声に芭蕉破れぬべし
野を横に馬引き向けよほととぎす
落ち来るや高久の宿の郭公
湯をむすぶ誓ひも同じ石清水
石の香や夏草赤く露暑し
田一枚植ゑて立ち去る柳かな
西か東かまづ早苗にも風の音
早苗にも我が色黒き日数哉
風流の初めや奥の田植歌
世の人の見付けぬ花や軒の栗
隠れ家や目だたぬ花を軒の栗
関守の宿を水鶏に問はうもの
五月雨は滝降り埋むみかさ哉
早苗とる手もとや昔しのぶ摺 早苗つかむ手もとや昔しのぶ摺・・
笈も太刀も五月に飾れ紙幟
弁慶が笈をも飾れ紙幟
桜より松は二木を三月越し
散り失せぬ松や二木を三月越し
笠島はいづこ五月のぬかり道 笠島やいづこ五月のぬかり道
あやめ草足に結ばん草履の緒
島々や千々に砕きて夏の海
夏草や兵どもが夢の跡
五月雨の降り残してや光堂 五月雨や年年降るも五百たび
蛍火の昼は消えつつ柱かな
蚤虱馬の尿する枕もと 蚤虱馬の尿こく枕もと
涼しさをわが宿にしてねまるなり
這ひ出よ飼屋が下の蟾の声 這ひ出よ飼屋が下の蟇
眉掃を俤にして紅粉の花
閑さや岩にしみ入る蝉の声 山寺や石にしみつく蝉の聲
五月雨を集めて早し最上川 五月雨を集めて涼し最上川
水の奥氷室尋ぬる柳哉
風の香も南に近し最上川
ありがたや雪をかをらす南谷 ありがたや雪をかをらす風の音
涼しさやほの三日月の羽黒山 涼風やほの三日月の羽黒山
雲の峰いくつ崩れて月の山
語られぬ湯殿にぬらす袂かな
その玉や羽黒にかへす法の月
月か花か問へど四睡が鼾哉
めづらしや山を出羽の初茄子
暑き日を海に入れたり最上川
涼しさや海に入れたる最上川
象潟や雨に西施が合歓の花 象潟の雨や西施が合歓の花
夕晴れや桜に涼む波の華
汐越や鶴脛ぬれて海涼し
腰長や鶴脛ぬれて海涼し
あつみ山や吹浦かけて夕涼み
初真桑四つにや断たん輪に切らん
文月や六日も常の夜には似ず
荒海や佐渡に横たふ天の河
薬欄にいづれの花を草枕
小鯛插す柳涼しや海士が家
一家に遊女も寝たり萩と月
早稲の香や分け入る右は有磯海 稲の香や分け入る右は有磯海
熊坂がゆかりやいつの玉祭 熊坂がその名やいつの玉祭
あかあかと日はつれなくも秋の風
秋涼し手ごとにむけや瓜茄子
残暑しばし手毎料れ瓜茄子
塚も動けわが泣く声は秋の風
しをらしき名や小松吹く萩すすき
濡れて行くや人もをかしき萩薄
むざんやな甲の下のきりぎりす あなむざんや甲の下のきりぎりす
山中や菊は手折らぬ湯の匂 山中や菊は手折らじ湯の匂
桃の木のその葉散らすな秋の風
漁り火に鰍や浪の下むせび
湯の名残り今宵は肌の寒からん
湯の名残り幾度見るや霧のもと
今日よりや書付消さん笠の露
さびしげに書付消さん笠の露
石山の石より白し秋の風
庭掃いて出でばや寺に散る柳
物書いて扇引き裂く名残かな 物書いて扇子へぎ分くる別れ哉
名月の見所問はん旅寝せん
あさむつや月見の旅の明け離れ あさむつを月見の旅の明け離れ
月見せよ玉江の芦を刈らぬ先
明日の月雨占なはん比那が嶽
月に名を包みかねてや痘瘡の神
義仲の寝覚めの山か月悲し
中山や越路も月はまた命
国々の八景さらに気比の月
月清し遊行の持てる砂の上 月清し遊行の持てる砂の露・・
名月や北国日和定めなき
月いづく鐘は沈める海の底
月のみか雨に相撲もなかりけり
古き名の角鹿や恋し秋の月
寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋
波の間や小貝にまじる萩の塵
小萩散れますほの小貝小盃
衣着て小貝拾はん種の月
胡蝶にもならで秋経る菜虫哉
鳩の声身に入みわたる岩戸哉
そのままよ月もたのまじ伊吹山
籠り居て木の実草の実拾はばや
早く咲け九日も近し菊の花 早う咲け九日も近し宿の菊
藤の実は俳諧にせん花の跡
隠れ家や月と菊とに田三反
西行の草鞋もかかれ松の露
蛤のふたみに別れ行く秋ぞ 蛤のふたみへ別れ行く秋ぞ
憂きわれを寂しがらせよ秋の寺
月さびよ明智が妻の話せむ
尊さに皆おしあひぬ御遷宮
秋の風伊勢の墓原なほ凄し
硯かと拾ふやくぼき石の露
門に入れば蘇鉄に蘭のにほひ哉
枝ぶりの日ごとに変る芙蓉かな
初時雨猿も小蓑を欲しげなり
人々をしぐれよ宿は寒くとも
茸狩やあぶなきことに夕時雨 茸狩やあぶない事に夕時雨
冬庭や月もいとなる虫の吟
屏風には山を画書いて冬籠り
初雪に兎の皮の髭作れ
いざ子供走りありかん玉霰
初雪やいつ大仏の柱立
雪悲しいつ大仏の瓦葺き
山城へ井出の駕籠借る時雨哉
長嘯の墓もめぐるか鉢叩き
少将の尼の話や志賀の雪
これや世の煤に染まらぬ古合子
霰せば網代の氷魚を煮て出さん
何にこの師走の市にゆく烏
元禄3年
細かなる雨や二葉のなすび種
この種と思ひこなさじ唐辛子 唐辛子思ひこなさじ物の種
種芋や花の盛りに売り歩く 芋種や花の盛りに売り歩く
土手の松花や木深き殿造り
木のもとに汁も膾も桜かな
似合はしや豆の粉飯に桜狩り
畑打つ音や嵐の桜麻
陽炎や柴胡の糸の薄曇り
蝶の羽のいくたび越ゆる塀の屋根
一里はみな花守の子孫かや
蛇食ふと聞けばおそろし雉子の声
草枕まことの華見しても来よ
四方より花吹き入れて鳰の波
山桜瓦葺くものまづ二つ
行く春を近江の人と惜しみける 行く春や近江の人と惜しみける
独り尼藁屋すげなし白躑躅
曙はまだ紫にほととぎす 曙やまだ朔日にほととぎす
先づ頼む椎の木も有り夏木立
君や蝶我や荘子が夢心
夏草に富貴を飾れ蛇の衣
夏草や我先達ちて蛇狩らん
夕にも朝にもつかず瓜の花
日の道や葵傾く五月雨
橘やいつの野中の郭公
蛍見や船頭酔うておぼつかな
己が火を木々に蛍や花の宿
京にても京なつかしやほととぎす
川風や薄柿着たる夕涼み
我に似るなふたつに割れし真桑瓜
我が宿は蚊の小さきを馳走かな
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声
合歓の木の葉越しも厭へ星の影
玉祭り今日も焼場の煙哉
蜻蜒や取りつきかねし草の上
猪もともに吹かるる野分かな 猪のともに吹かるる野分哉
こちら向け我もさびしき秋の暮
白髪抜く枕の下やきりぎりす
月見する座に美しき顔もなし 名月や座にうつくしき顔もなし ・・
月代や膝に手を置く宵の宿
桐の木に鶉鳴くなる塀の内
稲妻に悟らぬ人の貴さよ
草の戸を知れや穂蓼に唐辛子
病雁の夜寒に落ちて旅寝哉
海士の屋は小海老にまじるいとど哉
朝茶飲む僧静かなり菊の花
蝶も来て酢を吸ふ菊の鱠哉 蝶も来て酢を吸ふ菊の酢和哉
雁聞きに京の秋に赴かん
しぐるるや田の新株の黒むほど
きりぎりす忘れ音に啼く火燵哉
霜の後撫子咲ける火桶哉
こがらしや頬腫痛む人の顔
初雪や聖小僧が笈の色
雪散るや穂屋の薄の刈り残し
節季候の来れば風雅も師走哉
千鳥立ち更け行く初夜の日枝颪
住みつかぬ旅の心や置炬燵
煤掃は杉の木の間の嵐哉
半日は神を友にや年忘れ
乾鮭も空也の痩も寒の中
納豆切る音しばし待て鉢叩き
石山の石にたばしる霰哉
ひごろ憎き烏も雪の朝哉
つね憎き烏も雪の朝哉
三尺の山も嵐の木の葉哉
比良三上雪さしわたせ鷺の橋
たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠
かくれけり師走の海のかいつぶり
人に家を買はせて我は年忘れ
元禄4年
衰ひや歯に喰ひ当てし海苔の砂 噛み当つる身のおとろひや海苔の砂
山吹や笠に挿すべき枝の形
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時
闇の夜や巣をまどはして鳴く鵆
憂き節や竹の子となる人の果て
嵐山藪の茂りや風の筋
柚の花や昔しのばん料理の間
ほととぎす大竹藪を漏る月夜
憂き我をさびしがらせよ閑古鳥
手を打てば木魂に明くる夏の月 夏の夜や木魂に明くる下駄の音
竹の子や稚き時の手のすさみ
一日一日麦あからみて啼く雲雀
麦の穂や涙に染めて啼く雲雀
能なしの眠たし我を行行子
五月雨や色紙へぎたる壁の跡
粽結ふ片手にはさむ額髪
風薫る羽織は襟もつくろはず
水無月は腹病やみの暑さかな 昼はなほ腹病煩の暑さかな
初秋や畳みながらの蚊屋の夜着
秋海棠西瓜の色に咲きにけり
秋風の吹けども青し栗の毬
荻の穂や頭をつかむ羅生門
牛部屋に蚊の声暗き残暑哉 牛部屋に蚊の声弱し秋の風
秋の色糠味噌壷もなかりけり
淋しさや釘に掛けたるきりぎりす
静かさや絵掛かる壁のきりぎりす
米くるる友を今宵の月の客
三井寺の門敲かばや今日の月
錠明けて月さし入れよ浮御堂
やすやすと出でていざよふ月の雲
十六夜や海老煮るほどの宵の闇
祖父親孫の栄えや柿蜜柑
名月はふたつ過ぎても瀬田の月
稲雀茶の木畠や逃げ処
鷹の目も今や暮れぬと鳴く鶉
蕎麦も見てけなりがらせよ野良の萩
折々は酢になる菊の肴かな
草の戸や日暮れてくれし菊の酒
橋桁の忍は月の名残り哉
九たび起きても月の七ツ哉
松茸や知らぬ木の葉のへばり付く
煮麺の下焚きたつる夜寒哉
秋風や桐に動きて蔦の霜 梧動く秋の終りや蔦の霜
稲こきの姥もめでたし菊の花 稲こきの姥もめでたし庭の菊
百歳の気色を庭の落葉哉
尊がる涙や染めて散る紅葉
作りなす庭をいさむる時雨かな
葱白く洗ひたてたる寒さかな
折々に伊吹を見ては冬籠り
凩に匂ひやつけし返り花
水仙や白き障子のとも移り
その匂ひ桃より白し水仙花
京に飽きてこの木枯や冬住ひ
雪を待つ上戸の顔や稲光
木枯に岩吹きとがる杉間かな
夜着ひとつ祈り出して旅寝かな
宿借りて名を名乗らする時雨かな
馬方は知らじ時雨の大井川
都出でて神も旅寝の日数哉
ともかくもならでや雪の枯尾花
留守のまに荒れたる神の落葉哉
葛の葉の面見せけり今朝の霜
雁さわぐ鳥羽の田面や寒の雨
魚鳥の心は知らず年忘れ
元禄5年
唐破風の入日や薄き夕涼み /破風口の日影や弱る夕涼み
七株の萩の千本や星の秋
撫子の暑さ忘るる野菊かな
三日月に地は朧なり蕎麦の花 三日月の地はおぼろなる蕎麦の花
芭蕉葉を柱に懸けん庵の月
名月や門にさしくる潮がしら
霧雨の空を芙蓉の天気哉
青くてもあるべきものを唐辛子
川上とこの川下や月の友
秋に添うて行かばや末は小松川
行く秋のなほ頼もしや青蜜柑 行くもまた末頼もしや青蜜柑
初霜や菊冷え初むる腰の綿
今日ばかり人も年寄れ初時雨
炉開きや左官老い行く鬢の霜
口切に堺の庭ぞなつかしき
御命講や油のような酒五升
塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店
庭掃きて雪を忘るる帚かな
埋火や壁には客の影法師
月花の愚に針立てん寒の入り
打ち寄りて花入探れ梅椿
なかなかに心をかしき臘月哉
節季候を雀の笑ふ出立かな
蛤の生けるかひあれ年の暮
元禄6年
蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉/蛤に今日は売り勝つ若菜かな
春もやや気色ととのふ月と梅
白魚や黒き目を明く法の網
蒟蒻の刺身もすこし梅の花
当帰よりあはれは塚の菫草
初午に狐の剃りし頭哉
鶴の毛の黒き衣や花の雲
篠の露袴に掛けし茂り哉
ほととぎす声や横たふ水の上
一声の江に横たふやほととぎす・・
風月の財も離れよ深見艸
旅人の心にも似よ椎の花 /椎の花の心にも似よ木曽の旅
憂き人の旅にも習へ木曽の蝿
夕顔や酔うて顔出す窓の穴 夕顔に酔うて顔出す窓の穴
子供等よ昼顔咲きぬ瓜剥かん /いざ子供昼顔咲かば瓜剥かん
窓形に昼寝の台や簟/窓形に昼寝の茣蓙や竹簟
高水に星も旅寝や岩の上
白露もこぼさぬ萩のうねり哉
初茸やまだ日数経ぬ秋の露
朝顔や昼は錠おろす門の垣
蕣や是も又我が友ならず
なまぐさし小菜葱が上の鮠の腸
夏かけて名月暑き涼み哉
十六夜はわづかに闇の初め哉/十六夜はとりわけ闇の初め哉
秋風に折れて悲しき桑の杖
見しやその七日は墓の三日の月
入る月の跡は机の四隅哉
月やその鉢木の日のした面
老の名のありとも知らで四十雀
影待や菊の香のする豆腐串
菊の花咲くや石屋の石の間
琴箱や古物店の背戸の菊
行く秋の芥子に迫りて隠れけり
金屏の松の古さよ冬籠り
難波津や田螺の蓋も冬ごもり
菊の香や庭に切れたる靴の底
寒菊や粉糠のかかる臼の端
寒菊や醴造る窓の前
一露もこぼさぬ菊の氷かな
けごろもにつつみて温し鴨の足
鞍壷に小坊主乗るや大根引
初雪や懸けかかりたる橋の上
もののふの大根苦き話哉
振売の雁あはれなり恵美須講
恵比須講酢売に袴着せにけり
芹焼や裾輪の田井の初氷
皆出でて橋を戴く霜路哉/ありがたやいただいて踏む橋の霜
生きながら一つに氷る海鼠かな
煤掃は己が棚つる大工かな
有明も三十日に近し餅の音/月代や晦日に近き餅の音
盗人に逢うた夜もあり年の暮れ
元禄7年
/床に来て鼾に入るやきりぎりす
枡買うて分別かほなる月見かな /升買うて分別替る月見哉
秋もはやはらつく雨に月の形 /昨日からちょつちょと秋も時雨かな
秋の夜を打ち崩したる咄かな /秋の夜を打ち崩したる咄かな
おもしろき秋の朝寝や亭主ぶり
この道を行く人なしに秋の暮/
人声やこの道帰る秋の暮 ・・
松風や軒をめぐって秋暮れぬ
この秋は何で年寄る雲に鳥
白菊の目に立て見る塵もなし/白菊や目に立て見る塵もなし
月澄むや狐こはがる児の供
秋深き隣は何をする人ぞ
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
不明(貞亨・元禄年間)
草の戸の月やそのままあみだ坊
見所のあれや野分の後の菊
夜すがらや竹氷らする今朝の霜
咲き乱す桃の中より初桜
雑水に琵琶聴く軒の霰かな
花と実と一度に瓜の盛りかな
古川にこびて目を張る柳かな
榎の実散る椋の羽音や朝嵐
この宿は水鶏も知らぬ扉かな
雪間より薄紫の芽独活哉
前髪もまだ若艸の匂ひかな
春の夜は桜に明けてしまひけり
分別の底たたきけり年の昏
撫子にかかる涙や楠の露
昔聞け秩父殿さへすまふとり
鬼灯は実も葉も殻も紅葉哉
菊の露落ちて拾へば零余子かな
わが宿は四角な影を窓の月
物いへば唇寒し秋の風
せつかれて年忘れする機嫌かな
木枯しや竹に隠れてしづまりぬ
紫陽花や帷子時の薄浅黄
菊の後大根の外更になし
雀子と声鳴きかはす鼠の巣
烏賊売の声まぎらはし杜宇
奈良七重七堂伽藍八重ざくら
西行の庵もあらん花の庭
猿引は猿の小袖を砧哉
またうどな犬ふみつけて猫の恋
なに喰うて小家は秋の柳陰
須磨の浦の年取り物や柴一把
この寺は庭一盃のばせを哉
松茸やかぶれたほどは松の形
蝙蝠も出でよ浮世の華に鳥
物ほしや袋のうちの月と花
葉にそむく椿の花やよそ心
春雨や蓑吹きかへす川柳
借りて寝ん案山子の袖や夜半の霜
梅が香に追ひもどさるる寒さかな
別れ端や笠手に提げて夏羽織
日にかかる雲やしばしの渡り鳥
朝な朝な手習ひすすむきりぎりす
雨折々思ふことなき早苗哉
蝶鳥の浮つき立つや花の雲
幼名や知らぬ翁の丸頭巾
子に飽くと申す人には花もなし
初時雨初の字を我が時雨哉
世に盛る花にも念仏申しけり
松風の落葉か水の音涼し
袖の色よごれて寒し濃鼠
香を残す蘭帳蘭のやどり哉
古法眼出どころあはれ年の暮
この槌のむかし椿か梅の木か
武蔵野やさはるものなき君が傘
梅が香や見ぬ世の人に御意を得る