芭蕉db
   笵蠡が長男の心を言へる
   『山家集』の題に習ふ

一露もこぼさぬ菊の氷かな

(続猿蓑)

(ひとつゆも こぼさぬきくの こおりかな)

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 元禄6年冬。笵蠡<はんれい>が長男の心を言へる『山家集』の題に習ふ」という前詞は、西行の歌「すてやらで命を恋ふる人はみな千々の黄金をもて帰るなり」をさす。この歌は、越王勾踐<こうせん>の忠臣笵蠡は後に財産家となった。が、その子の一人が人を殺し、それを金を持って解決しようとして長男に大金を持たせて派遣したところ、この長男は金を惜しんで出さなかったため息子は刑吏に殺害されてしまった。

一露もこぼさぬ菊の氷かな

 晩秋の菊の花には朝露が凍ってついている。まるで菊の花びらは、この氷を金貨かなにかと思って手放すまいとしているみたいだ。それは笵蠡の長男のようでもあり、命を惜しんでいる人のようでもある。