芭蕉db

雪の枯尾花

(元禄4年11月 48歳)


 世の中さだめがたくて、この六年七年がほどは旅寝がちにはべれども、多病くるしむにたへ、年ごろちなみ置ける*旧友・門人の情忘れがたきままに、重ねて武蔵野に帰りしころ*、ひとびと日々草扉を訪れはべるに、答へたる一句

               ばせを

ともかくもならでや雪の枯尾花

(ともかくも ならでやゆきの かれおばな)

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ともかくもならでや雪の枯尾花

 芭蕉最後の江戸帰還である。冒頭の「ともかくもならで」は「何ともならなかった」の意から転じて「死にもしないで」の意。雪に埋もれた薄の穂を自身の身に置き換えた。一句は、その枯れ尾花は死んではいないのだろう、私と同じようにといった意味。


埼玉県秩父郡吉田町萬福寺境内の句碑(牛久市森田武さん提供)。