芭蕉db

どんみりと樗や雨の花曇り

(芭蕉翁行状記)

(どんみりと あうちやあめの はなぐもり)

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 元禄7年5月13日、51歳。江戸を発って最後の上方への旅の途次、箱根あたりでの作か。梅雨空の蒸し暑い中、体力の無い芭蕉にとって決して楽な旅ではなかった。栴檀の花曇りは身に堪えるものであったろう。


栴檀の花


どんみりと樗や雨の花曇り

 樗<オウチまたはアウチ>は栴檀<センダン>の古名。「栴檀は双葉より芳し」の栴檀はこれではなく香木のビャクダンのこと。センダン科の落葉喬木。暖かい地方に自生し、梅雨の季節に紫色の五弁の花をつける。秋に楕円形の実をつけ、これがひびの薬として使われたという。家具や建築材に多用されるが、昔さらし首の台としても使ったという。清少納言によれば、「木のさまにくげなれどおうちの花いとをかし」(『枕草子 37』)である。
 花曇りは桜の花曇りが普通だが、樗の花曇りであれば蒸し暑い疲労感のある花曇りである。それは「どんみり」とした不快指数の高い、けだるい感じの季節感に違いない。
   


静岡県三島大社境内の句碑(牛久市森田武さん提供)