芭蕉db

奥の細道

(天龍寺)


「余波の碑<なごりのひ>」
芭蕉と北枝の別れの銅像。さすがに北陸の冬は寒く二人とも防寒着を着用(森田武さん撮影)


 丸岡天竜寺*の長老、古き因あれば尋ぬ*。又、金沢の北枝*といふもの、かりそめに見送りて此処までしたひ来る。所々の風景過さず思ひつヾけて*、折節あはれなる作意など聞ゆ*。今既別に望みて*

物書て扇引さく余波哉

(ものかきて おうぎひきさく なごりかな)


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表紙 年表


物書きて扇引さく余波哉

 扇は夏使うもの。秋になるとこれを箪笥にしまう。これを捨て扇という。一句の季節は捨て扇の時候である。その扇に一句したためて名残を惜しむ。初めて会った北枝との別離を描いた句。芭蕉は、一見して北枝を気に入った。
 なお、初案は、

物書いて扇子へぎ分くる別れ哉 (卯辰集)

であり、『卯辰集』では、この句に北枝の前注「松岡にて翁に別れ侍りし時、扇に書きて賜はる」がある。


「物書て扇引さく餘波哉」の句碑(写真提供:牛久市森田武さん)