(汐越の松)
終宵嵐に波をはこばせて
月をたれたる汐越の松 西行*
吉崎の入江を舟に棹して:<よしざきのいりえをふねにさおさして>と読む。ここに浄土真宗第8世蓮如上人が遁れてきて吉崎御坊を開いた。室町時代末期には浄土真宗の一大聖地となった。
汐越の松:<しおこしのまつ>と読む。歌枕。吉崎対岸の浜坂に有った松。汐が満ちてくるとその枝まで海水が上がってきて、枝が海中に没するところから名づけられたという。
終宵嵐に波をはこばせて・・西行:<よもすがらあらしになみをはこばせて・・>。この歌は西行ではなく蓮如の作。この時代には西行のものと思われていた。
無用の指を立るがごとし:蛇足を加えることになるの意。 すばらしい歌とも思えないが、西行の作と聞けば話は違ってくるという例であろう。
全文翻訳
越前と加賀との国境、吉崎の入り江に舟を出して、汐越しの松を見に行った。
終宵嵐に波をはこばせて月をたれたる汐越の松 西行
この一首ですべては言い尽くされた。もしこれに、何かを加えようと言うのであれば、それは五本の指にもう一本指を加えるに等しく無駄以外の何物でもない。