芭蕉db

嵯峨日記

(5月4日)


一、四日
宵に寝ざりける草臥に終日臥*。昼より雨降止ム。
明日は落柿舎を出んと名残をしかりければ、奥・口*の一間一間を見廻りて、

五月雨や色帋へぎたる壁の跡

(さみだれや しきしへぎたる かべのあと)

(『嵯峨日記』了)


前へ

表紙へ 年表


五月雨や色紙へぎたる壁の跡

 去来の別荘落柿舎滞在は、20日間に満たない短時日であったが、いよいよ立ち去るとなると改めて寂寥感も無いわけではない。しみじみと見れば、色紙を剥いだ跡の残る壁の模様などにも今更の思いが込み上げてくる。「へぎたる」は、剥ぎ取るの意。

 ここに来たのは晩春の頃であったが、季節は巡り五月雨に入ったようだ。芭蕉はこの後、京市内にある凡兆宅に6月中旬まで滞在の後、膳所の義仲寺へと戻っていく。 そして、秋には二年半ぶりの江戸へ戻る。


落柿舎内に有る「五月雨や色紙へぎたる壁の跡」の句碑