芭蕉db

初時雨猿も小蓑を欲しげなり

(猿蓑)

(はつしぐれ さるもこみのを ほしげなり)

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 元禄2年9月下旬の作。作者46歳。『猿蓑』撰集の冒頭句に掲出した句。『猿蓑』の其角の序には;
「只俳諧に魂の入りたらむにこそとて、我が翁行脚の頃、伊賀越えしける山中にて、猿に小蓑を着せて、俳諧の神を入れたまひければ、たちまち断腸のおもひを叫びけむ、あたに懼るべき幻術なり。これを元として此の集をつくりたて、猿蓑とは名付け申されける。」
とある。
 また、芭蕉真蹟では、「五百里の旅路を経て、暑かりし夏も過ぎ、悲しかりし秋も暮れて、古里に冬を迎え、山家の時雨にあへば」と前詞がある。『奥の細道』の旅を終えて帰郷の折、伊賀越えの山中に初時雨にあって詠まれたものとされている。芭蕉最高傑作の一つ。

初時雨猿も小蓑を欲しげなり

 伊賀越えの山の中で初時雨に遭遇した。自分はさっそく蓑を腰に巻いたが、寒さの中で樹上の猿たちも小蓑をほしそうな気振りに見えることだ。
 この一句、決して動物愛護の精神から猿にも防寒用の蓑をやりたいものだと言っているのではない。初時雨や哀猿は、古来日本文学のキータームであった。芭蕉はこれを俳諧化して「小蓑を欲しげなり」としたのである。


三重県阿山郡大山田村長野峠にあった句碑。「この句碑に出会った時は嬉しかった」と森田武さんの添え書きがありました。旅人には不案内な伊賀の山中で、迷いまよいようやく発見したもののようです。