芭蕉俳句全集
(制作年代順)
寛文年間
延宝年間
天和年間
貞亨年間
元年 2年 3年 4年 5年 不明
元禄年間
五十音順へ 季題別順へ 主題別順へ 地域別順へ
年表へ 芭蕉db
貞亨元年
春立つや新年ふるき米五升 我富めり新年古き米五升 似合はしや新年古き米五升・・歳旦
海苔汁の手際見せけり浅黄椀
南無ほとけ草の台も涼しかれ
忘れずば小夜の中山にて涼め
野ざらしを心に風のしむ身かな
秋十年却って江戸を指す故郷
霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき
雲霧の暫時百景を尽しけり
猿を聞く人捨子に秋の風いかに 猿を泣く旅人捨子に秋の風いかに
道のべの木槿は馬に食はれけり
馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり 馬に寝て残夢残月茶の煙・・
三十日月なし千年の杉を抱く嵐
芋洗ふ女西行ならば歌詠まむ
蘭の香や蝶の翅に薫物す
蔦植ゑて竹四五本の嵐かな
手にとらば消えん涙ぞ熱き秋の霜
綿弓や琵琶に慰む竹の奥
僧朝顔幾死に返る法の松
冬知らぬ宿や籾摺る音霰
碪打ちてわれに聞かせよ坊が妻
露とくとく試みに浮世すすがばや
御廟年経て偲ぶは何をしのぶ草
木の葉散る桜は軽し檜木笠
義朝の心に似たり秋の風
秋風や薮も畠も不破の関
苔埋む蔦のうつつの念仏哉
死にもせぬ旅寝の果てよ秋の暮 死よ死なぬ浮身の果ては秋の暮
琵琶行の夜や三味線の音霰
いかめしき音や霰の檜木笠
宮守よわが名を散らせ木葉川
冬牡丹千鳥よ雪のほととぎす
あけぼのや白魚白きこと一寸 雪薄し白魚しろきこと一寸
遊び来ぬ鰒釣りかねて七里まで 鰒釣らん李陵七里の浪の雪
この海に草鞋捨てん笠時雨
馬をさえ眺むる雪の朝かな
しのぶさへ枯れて餅買ふやどりかな
笠もなきわれを時雨るるかこは何と 笠もなきわれを時雨るるか何と何と
狂句木枯しの身は竹斎に似たるかな
草枕犬も時雨るるか夜の声
市人よこの笠売らう雪の笠 市人にいで是売らむ笠の雪
雪と雪今宵師走の名月か
海暮れて鴨の声ほのかに白し
年暮れぬ笠きて草鞋はきながら
貞亨2年
子の日しに都へ行かん友もがな
旅烏古巣は梅になりにけり
春なれや名もなき山の薄霞 春なれや名もなき山の朝霞
水取りや氷の僧の沓の音
初春まづ酒に梅売る匂ひかな
世に匂へ梅花一枝のみそさざい
梅白し昨日や鶴を盗まれし
樫の木の花にかまはぬ姿かな
わが衣に伏見の桃の雫せよ
山路来て何やらゆかし菫草 何とはなしに何やらゆかし菫草
辛崎の松は花より朧にて
躑躅生けてその陰に干鱈割く女
菜畠に花見顔なる雀哉
命二つの中にいきたる桜かな
船足も休む時あり浜の桃
蝶の飛ぶばかり野中の日影哉
杜若われに発句の思ひあり
鳥刺も竿や捨てけんほととぎす
団扇もてあふがん人のうしろむき
月華の是やまことのあるじ達
いざ共に穂麦喰はん草枕
梅恋ひて卯の花拝む涙かな
白芥子に羽もぐ蝶の形見かな
思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
牡丹蘂深く分け出づる蜂の名残かな 牡丹蘂分けて這ひ出づる蜂の余波哉
行く駒の麦に慰むやどりかな
山賎のおとがひ閉づる葎かな
夏衣いまだ虱を取り尽さず
雲をりをり人をやすめる月見かな 雲をりをり人をやすむる月見かな
盃にみつの名を飲む今宵かな
めでたき人の数にも入らむ老の暮 めでたき人の数にも入らむ年の暮
貞亨3年
貞亨4年
草も木も離れ切つたるひばりかな
笠寺や漏らぬ岩屋も春の雨
ほととぎす鳴く鳴く飛ぶぞ忙はし
卯の花も母なき宿ぞ冷じき
五月雨や桶の輪切るる夜の声
髪生えて容顔青し五月雨
五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん
鰹売りいかなる人を酔はすらん
いでや我よき布着たり蝉衣
酔うて寝ん撫子咲ける石の上
瓜作る君があれなと夕涼み
さざれ蟹足這ひのぼる清水哉
稲妻を手にとる闇の紙燭哉
朝顔は下手の書くさへあはれなり
萩原や一夜はやどせ山の犬 狼も一夜はやどせ萩がもと
刈りかけし田面の鶴や里の秋
賎の子や稲摺りかけて月を見る
芋の葉や月待つ里の焼畑
月はやし梢は雨を持ちながら
寺に寝てまこと顔なる月見かな
この松の実生えせし代や神の秋
蓑虫の音を聞きに来よ草の庵
起きあがる菊ほのかなり水のあと
痩せながらわりなき菊のつぼみ哉
旅人とわが名呼ばれん初しぐれ
一尾根はしぐるる雲か富士の雪
京まではまだ半空や雪の雲
星崎の闇を見よとや啼く千鳥
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき 寒けれど二人旅寝ぞ頼もしき
ごを焚いて手拭あぶる寒さ哉 ごを焚いて手拭あぶる氷哉
冬の日や馬上に凍る影法師 冬の田の馬上にすくむ影法師 ・・
雪や砂馬より落ちよ酒の酔
鷹一つ見付けてうれし伊良湖崎
いらご崎似るものもなし鷹の声
夢よりも現の鷹ぞ頼もしき
さればこそ荒れたきままの霜の宿
麦生えてよき隠れ家や畑村 麦蒔きてよき隠れ家や畑村
梅椿早咲き褒めん保美の里
まづ祝へ梅を心の冬籠り
面白し雪にやならん冬の雨
薬飲むさらでも霜の枕かな
磨ぎなほす鏡も清し雪の花
ためつけて雪見にまかる紙子かな
いざさらば雪見にころぶ所まで いざ行かむ雪見にころぶ所まで・・
箱根こす人も有るらし今朝の雪
旅寝よし宿は師走の夕月夜
香を探る梅に蔵見る軒端かな 香を探る梅に家見る軒端哉
露凍てて筆に汲み干す清水哉
旅寝して見しやうき世の煤はらい
徒歩ならば杖突坂を落馬かな
旧里や臍の緒に泣く年の暮
貞亨5
藪椿門は葎の若葉かな
この山のかなしさ告げよ野老掘/山寺の悲しさ告げよ野老掘り
盃に泥な落しそ群燕/盃に泥な落しそ舞ふ燕/盃に泥な落しそ飛ぶ燕
紙衣の濡るとも折らん雨の花/紙子着て濡るとも折らん雨の花
神垣や思ひもかけず涅槃像
裸にはまだ衣更着の嵐かな
初桜折りしも今日はよき日なり
さまざまのこと思ひ出す桜かな
花を宿に始め終りや二十日ほど
このほどを花に礼いふ別れ哉
吉野にて桜みせうぞ檜笠
春の夜や篭り戸ゆかし堂の隅
雲雀より空にやすらふ峠かな 雲雀より上にやすらふ峠かな
龍門の花や上戸の土産にせん
酒飲みに語らんかかる滝の花
花の陰謡に似たる旅寝哉
扇にて酒くむかげや散る桜/扇子にて酒くむ花の木陰かな
声よくば謡はうものを桜散る
ほろほろと山吹散るか滝の音
桜狩り奇特や日々に五里六里/六里七里日ごとに替る花見哉
日は花に暮れてさびしやあすならう/さびしさや華のあたりのあすならふ
春雨の木下につたふ清水かな 春雨の木下にかかる清水哉
凍て解けて筆に汲み干す清水哉
花盛り山は日ごろの朝ぼらけ
なほ見たし花に明けゆく神の顔
父母のしきりに恋し雉の声
行く春に和歌の浦にて追ひ付きたり
一つ脱いで後に負ひぬ衣がへ ひとつ脱ぎてうしろに負ひぬころもがへ
灌仏の日に生まれあふ鹿の子かな
若葉して御目の雫ぬぐはばや
鹿の角まづ一節のわかれかな/
二俣に別れ初めけり鹿の角
草臥れて宿かるころや頃や藤の花/
ほととぎす宿借るころの藤の花
里人は稲に歌詠む都かな
楽しさや青田に涼む水の音
杜若語るも旅のひとつかな
月はあれど留守のやうなり須磨の夏/夏はあれど留守のやうなり須磨の月
月見ても物たらはずや須磨の夏
海士の顔まづ見らるるや芥子の花
須磨の海士の矢先に鳴くか郭公
須磨寺や吹かぬ笛聞く木下闇
ほととぎす消え行く方や島一つ
蛸壺やはかなき夢を夏の月
かたつぶり角振り分けよ須磨明石
足洗うてつひ明けやすき丸寝かな
有難き姿拝まんかきつばた
花あやめ一夜に枯れし求馬哉
五月雨に隠れぬものや瀬田の橋
この螢田毎の月にくらべみん
目に残る吉野を瀬田の螢哉
草の葉を落つるより飛ぶ螢哉
世の夏や湖水に浮む浪の上
海は晴れて比叡降り残す五月哉
夕顔や秋はいろいろの瓢哉
鼓子花の短夜眠る昼間哉
昼顔に昼寝せうもの床の山
無き人の小袖も今や土用干
来てみれば獅子に牡丹のすまひかな
宿りせん藜の杖になる日まで
山陰や身を養はん瓜畠
もろき人にたとへん花も夏野哉
撞鐘もひびくやうなり蝉の声
城跡や古井の清水まづ訪はん
又やたぐひ長良の川の鮎鱠
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな
このあたり目に見ゆるものは皆涼し
夏来てもただひとつ葉の一葉かな
何事の見立てにも似ず三日の月/ありとある見立てにも似ず三日の月・・
刈り跡や早稲かたかたの鴫の声
あの雲は稲妻を待つたより哉
よき家や雀よろこぶ背戸の粟 よき家や雀よろこぶ背戸の秋
初秋や海も青田も一みどり 初秋は海やら田やら緑哉・・
旅に飽きてけふ幾日やら秋の風
蓮池や折らでそのまま玉祭
粟稗にとぼしくもあらず草の庵 粟稗にまづしくもなし草の庵
秋を経て蝶もなめるや菊の露
隠さぬぞ宿は菜汁に唐辛子
見送りのうしろや寂し秋の風
送られつ別れつ果ては木曽の秋 送られつ送りつ果ては木曽の秋
草いろいろおのおの花の手柄かな
朝顔は酒盛知らぬ盛り哉
ひよろひよろと尚露けしや女郎花 ひよろひよろと転けて露けし女郎花
あの中に蒔絵書きたし宿の月/月の中に蒔絵書きたし宿の月
桟橋や命をからむ蔦葛
桟橋や先づ思い出づ駒迎へ
俤や姥ひとり泣く月の友
十六夜もまだ更科の郡かな
身にしみて大根からし秋の風
木曽の橡浮世の人の土産かな/世に居りし人に取らせん木曽の橡
月影や四門四宗もただ一つ
吹き飛ばす石は浅間の野分哉/吹き落す石を浅間の野分哉・・
いざよひのいづれか今朝に残る菊 十六夜の月と見やはせ残る菊
木曽の痩せもまだなほらぬに後の月
蔦の葉は昔めきたる紅葉哉
行く秋や身に引きまとふ三布蒲団
貞亨年間
声澄みて北斗にひびく砧哉
瓜の花雫いかなる忘れ草
四方に打つ薺もしどろもどろ哉
何ごとも招き果てたる薄哉
世の中は稲刈るころか草の庵