霧晴れて桟橋は目もふさがれず (『更科紀行採録』)
山吹のあぶなき岨のくづれ哉 (『春の日』)
みかへれば白壁いやし夕がすみ (『春の日』)
花にうづもれて夢より直に死んかな (『春の日』)
藤の花たゞうつぶいて別哉 (『春の日』)
かつこ鳥板屋の背戸の一里塚 (『春の日』)
夕がほに雑水あつき藁屋哉 (『春の日』)
六月の汗ぬぐひ居る臺かな (『春の日』)
玉まつり桂にむかふ夕かな (『春の日』)
山寺に米つくほどの月夜哉 (『春の日』)
行燈の煤けぞ寒き雪のくれ (『春の日』)
下々の下の客といはれん花の宿 (『あら野』)
おもしろや理窟はなしに花の雲 (『あら野』)
蝋燭のひかりにくしやほとゝぎす (『あら野』)
雨の月どこともなしの薄あかり (『あら野』)
名月は夜明るきはもなかりけり (『あら野』)
はつ雪を見てから顔を洗けり (『あら野』)
はつ春のめでたき名なり賢魚ゝ (『あら野』)
初夢や濱名の橋の今のさま (『あら野』)
若菜つむ跡は木を割畑哉 (『あら野』)
むめの花もの氣にいらぬけしき哉 (『あら野』)
何事もなしと過行柳哉 (『あら野』)
つばきまで折そへらるゝさくらかな (『あら野』)
あかつきをむつかしさうに鳴蛙 (『あら野』)
なら漬に親よぶ浦の汐干哉 (『あら野』)
柿の木のいたり過たる若葉哉 (『あら野』)
聲あらば鮎も鳴らん鵜飼舟 (『あら野』)
撫子や蒔繪書人をうらむらん (『あら野』)
釣鐘草後に付たる名なるべし (『あら野』)
ちからなや麻刈あとの秋の風 (『あら野』)
山路のきく野菊とも又ちがひけり (『あら野』)
かげろふの抱つけばわがころも哉 (『あら野』)
はる風に帯ゆるみたる寐貌哉 (『あら野』)
もの數寄やむかしの春の儘ならん (『あら野』)
花ながら植かへらるゝ牡丹かな (『あら野』)
よの木にもまぎれぬ冬の柳哉 (『あら野』)
一方は梅さく桃の継木かな (『あら野』)
からながら師走の市にうるさヾい (『あら野』)
七夕よ物かすこともなきむかし (『あら野』)
夕月や杖に水なぶる角田川 (『あら野』)
天龍でたゝかれたまへ雪の暮 (『あら野』)
落ばかく身はつぶね共ならばやな (『あら野』)
行年や親にしらがをかくしけり (『あら野』)
妻の名のあらばけし給へ神送り (『あら野』)
散花の間はむかしばなし哉 (『あら野』)
ほろほろと落るなみだやへびの玉 (『あら野』)
たふとさの涙や直に氷るらん (『あら野』)
何とやらおがめば寒し梅の花 (『あら野』)
君が代やみがくことなき玉つばき (『あら野』)
月に柄をさしたらばよき團哉 (『あら野』)
雁がねもしづかに聞ばからびずや (『あら野』)
うらやましおもひ切時猫の恋 (『猿蓑』 『去来抄』)
稗の穂の馬逃したる気色哉 (『猿蓑』)
思ひきる時うらやまし猫の声 (『猿蓑』)
ちやのはなやほるゝ人なき霊聖女 (『猿蓑』)
ちるときの心やすさよ米嚢花 (『猿蓑』)
君が代や筑摩祭も鍋一ツ (『猿蓑』)
啼やいとヾ塩にほこりのたまる迄 (『猿蓑』)
稲づまや浮世をめぐる鈴鹿山 (『續猿蓑』)
月雪や鉢たゝき名は甚之亟 (『去来抄』)
君が春蚊屋はもよぎに極まりぬ (『去来抄』)
ちる時の心やすさよけしの花 (『去来抄』)