荷兮
櫻ちる中馬ながく連 重五
山かすむ月一時に舘立て 雨桐
鎧ながらの火にあたる也 李風
くもりに沖の岩黒く見え 執筆
須广寺に汗の帷子脱かへむ 重五
をのをのなみだ 笛を戴く 荷兮
雨の雫の角のなき草 雨桐
傾城乳をかくす晨明 昌圭
霧はらふ鏡に人の影移り 雨桐
わやわやとのみ神輿かく里 重五
鳥居より半道奥の砂行て 昌圭
花に長男の帋鳶あぐる比 李風
入かゝる日に蝶いそぐなり 荷兮
かほ懐に梓きゝゐる 雨桐
いともかしこき五位の針立 昌圭
はだしの跡も見えぬ時雨ぞ 重五
朝朗豆腐を鳶にとられける 昌圭
念佛さぶげに秋あはれ也 李風
我名を橋の名によばる月 荷兮
傘の内近付になる雨の昏に 李風
朝熊おるゝ出家ぼくぼく 雨桐
釣瓶ひとつを二人してわけ 昌圭
世にあはぬ局涙に年とりて 雨桐
記念にもらふ嵯峨の苣畑 重五
弟も兄も鳥とりにいく 李風
三月六日野水亭にて 且藁
なら坂や畑うつ山の八重ざくら
春の旅節供なるらん袴着て 荷兮
口すゝぐべき清水ながるゝ 越人
松風にたをれぬ程の酒の酔 羽笠
賣のこしたる虫はなつ月 執筆
笠白き太秦祭過にけり 野水
菊ある垣によい子見てをく 且藁
表町ゆづりて二人髪剃ん 越人
暁いかに車ゆくすじ 荷兮
何やら聞ん我國の聲 越人
萩ふみたをす万日のはら 野水
里人に薦を施す秋の雨 越人
月なき浪に重石ををく橋 羽笠
諷尽せる春の湯の山 且藁
内侍のえらぶ代々の眉の圖 荷兮
物おもふ軍の中は片わきに 羽笠
名もかち栗とぢゝ申上ゲ 野水
ものごと無我によき隣也 越人
宮古に廿日はやき麥の粉 羽笠
こは魂まつるきさらぎの月 且藁
春雨袖に御哥いたゞく 荷兮
力の筋をつぎし中の子 野水
漣や三井の末寺の跡とりに 且藁
高びくのみぞ雪の山々 越人
見つけたり廿九日月さむき 荷兮
君のつとめに氷ふみわけ 羽笠
三月十六日 且藁が田家にとまりて 野水
蛙のみきゝてゆゝしき寝覚かな
額にあたるはる雨のもり 且藁
蕨烹る岩木の臭き宿かりて 越人
まじまじ人をみたる馬の子 荷兮
立てのる渡しの舟の月影に 冬文
芦の穂を摺る傘の端 執筆
岩のあひより藏みゆる里 野水
雨の日も瓶燒やらん煙たつ 荷兮
ひだるき事も旅の一つに 越人
解てやをかん枝むすぶ松 冬文
今宵は更たりとてやみぬ。同十九日荷兮室にて
秋の和名にかゝる順 且藁
別の月になみだあらはせ 荷兮
春ゆく道の笠もむつかし 野水
簀の子茸生ふる五月雨の中 越人
紹鴎が瓢はありて米はなく 野水
瀧壺に柴押まげて音とめん 越人
岩苔とりの篭にさげられ 且藁
莚二枚もひろき我庵 越人
朝毎の露あはれさに麦作ル 且藁
碁うちを送るきぬぎぬの月 野水
風のなき秋の日舟に綱入よ 荷兮
鳥羽の湊のおどり笑ひに 冬文
つらつら一期聟の名もなし 荷兮
我春の若水汲に晝起て 越人
餅を食ひつゝいはむ君が代 且藁
山は花所のこらず遊ぶ日に 冬文
くもらずてらず雲雀鳴也 荷兮
追加
三月十九日舟泉亭 越人
山吹のあぶなき岨のくづれ哉
蝶水のみにおるゝ岩ばし 泉舟
行幸のために洗ふ土器 螽髭
月なき空の門はやくあけ 執筆
昌陸の松とは尽ぬ御代の春 利重
初春の遠里牛のなき日哉 昌圭
門は松芍薬園の雪さむし 舟泉
鯉の音水ほの闇く梅白し 羽笠
舟々の小松に雪の残けり 且藁
腰てらす元日里の睡りかな 犀夕
朝日二分柳の動く匂ひかな 荷兮
のがれたる人の許へ行とて
みかへれば白壁いやし夕がすみ 越人
古池や蛙飛びこむ水のをと 芭蕉
傘張の睡リ胡蝶のやどり哉 重五
春野吟
足跡に櫻を曲る庵二つ 杜國
餞別
藤の花たゞうつぶいて別哉 越人
郭公さゆのみ燒てぬる夜哉 李風
傘をたゝまで螢みる夜哉 舟泉
武蔵坊とぶらふ
すゞかけやしてゆく空の衣川 商露
逢坂の夜は笠みゆるほどに明て
馬かへておくれたりけり夏の月 聽雪
老耼曰知足之足常足
夕がほに雑水あつき藁屋哉 越人
帚木の微雨こぼれて鳴蚊哉 柳雨
萱草は随分暑き花の色 荷兮
暁の夏陰茶屋の遲きかな 昌圭
譬喩品ノ三界無安猶如火宅といへる心を
六月の汗ぬぐひ居る臺かな 越人
貧家の玉祭
玉まつり柱にむかふ夕かな 越人
山寺に米つくほどの月夜舟 越人
瓦ふく家も面白や秋の月 野水
八嶋をかける屏風の繪をみて
具足着て顔のみ多し月見哉 仝
待戀
こぬ殿を唐黍高し見おろさん 荷兮
閑居増戀
秋ひとり琴柱はづれて寝ぬ夜かな 荷兮
芭蕉翁を宿し侍りて
霜寒き旅寝に蚊屋を着せ申 大垣住如行
雪のはら蕣の子の薄かな 昌碧
行燈の煤けぞ寒き雪のくれ 越人
芭蕉翁をおくりてかへる時
この比の氷ふみわる名残かな 杜國
陰士にかりなる室をもうけて
あたらしき茶袋ひとつ冬篭 荷兮
貞亨三丙鉛N仲秋下浣 寺田重徳板