梅咲て人の怒の悔もあり 露沾
上臈の山荘にましましけるに候し奉りて
梅が香や山路獵入ル犬のまね 去来
むめが香や分入里は牛の角 加賀句空
庭興
梅が香や砂利しき流す谷の奥 土芳
梅が香や酒のかよひのあたらしき 膳所蝉鼠
子良の後に梅有といへば
痩藪や作りたふれの梅の花 千那
灰捨て白梅うるむ垣ねかな 凡兆
日當りの梅咲ころや屑牛房 膳所支幽
暗香浮動月黄昏
入相の梅になり込ひゞきかな 風麥
武江におもむく旅亭の残夢
寝ぐるしき窓の細目や闇の梅 乙
辛未のとし弥生のはじめつかた、よし
のゝ山に日くれて、梅のにほひしきりな
りければ、旧友嵐窓が、見ぬかたの花や
匂ひを案内者といふ句を、日ごろはふる
き事のやうにおもひ侍れども、折にふれ
て感動身にしみわたり、涙もおとすばか
りなれば、その夜の夢に正しくま見えて
悦るけしき有。亡人いまだ風雅を忘ざるや
夢さつて又一匂に宵の梅 嵐蘭
野畠や鴈追のけて摘若菜 史邦
はつ市や雪に漕来る若菜船 嵐蘭
憶翁之客中
裾折て菜をつみしらん草枕 嵐雪
我事と鯲のにげし根芹哉 丈艸
鶯の雪踏落す垣穂かな 伊賀一桐
鶯やはや一聲のしたりがほ 江戸渓石
鶯や窓に灸をすえながら 伊賀魚日
此瘤はさるの持べき柳かな 江戸卜宅
垣ごしにとらへてはなす柳哉 同遠水
よこた川植處なき柳かな 尚白
青柳のしだれや鯉の住所 伊賀一啖
雪汁や蛤いかす場のすみ 同木白
待中の正月もはやくだり月 揚水
田家に有て
麥めしにやつるゝ恋か猫の妻 芭蕉
露沾公にて餘寒の當座
春風にぬぎもさだめぬ羽織哉 亀翁
出替や幼ごゝろに物あはれ 嵐雪
人の手にとられて後や櫻海苔 尾張杉峯
陽炎や取つきかぬる雪の上 荷兮
いとゆふのいとあそぶ也虚木立 伊賀氷固
野馬に子共あそばす狐哉 凡兆
かげりふや柴胡の糸の薄曇 芭蕉
いとゆふに貌引きのばせ作リ獨活 伊賀配力
藏並ぶ裏は燕のかよひ道 凡兆
立さはぐ今や紀の厂伊勢の鴈 伊賀沢雉
春雨や屋ねの小草に花咲ぬ 嵐虎
高山に臥て
春雨や山より出る雲の門 猿雖
春雨や田簔のしまの鯲賣 史邦
泥龜や苗代水の畦つたひ 史邦
蜂とまる木舞の竹や虫の糞 昌房
春風にこかすな雛の駕籠の衆 伊賀萩子
もゝの花境しまらぬかきね哉 三川烏巣
里人の臍落したる田螺かな 嵐推
帋鳶切て白根が嶽を行衛哉 加ьR中桃妖
いかのぼりこゝにもすむや潦 伊賀園風
越より飛騨へ行とて、籠のわたりのあや
うきところどころ、道もなき山路にさま
よひて
鷲の巣の樟の枯枝に日は入ぬ 凡兆
かすみより見えくる雲のかしら哉 伊賀石口
芭蕉庵のふるきを訪
菫草小鍋洗しあとやこれ 曲水
木瓜莇旅して見たく野はなりぬ 江戸山店
畫讃
山吹や宇治の焙炉の匂ふ時 芭蕉
白玉の露にきはつく椿かな 車来
わがみかよはくやまひがちなりければ、髪
けづらんも物むつかしと、此春さまをかへ
て
笄もくしも昔やちり椿 羽紅
蝸牛打かぶせたるつばき哉 津國山本坂上氏
はつざくらまだ追々にさけばこそ 伊賀利雪
東叡山にあそぶ
小坊主や松にかくれて山ざくら 其角
鶏の聲もきこゆるやま櫻 凡兆
眞先に見し枝ならんちる櫻 丈艸
葛城のふもとを過る
猶見たし花に明行神の顔 芭蕉
いがの國花垣の庄は、そのかみ南良
の八重櫻の料に附られけると云傅え
はんべれば
一里はみな花守の子孫かや 芭蕉
亡父の墓東武谷中に有しに、三歳に
て別れ、廿年の後かの地にくだりぬ。
墓の前に櫻植置侍るよし、かねがね
母の物がたりつたへて、その櫻をた
づね侘びけるに、他の墓猶さくら咲
みだれ侍れば、
まがはしや花吸ふ蜂の往還リ 園風
ある僧の嫌ひし花の都かな 凡兆
浪人のやどにて
鼠共春の夜あれそ花靫 半残
腥きはな最中のゆふべ哉 伊賀長眉
はなも奥有とや、よしのに深く吟じ入て
大峯やよしのゝ奥の花の果 曾良
道灌山にのぼる
道灌や花はその代を嵐哉 嵐蘭
源氏の繪を見て
欄干に夜ちる花の立すがた 羽紅
庚午の歳家を焼て
燒にけりされども花はちりすまし 加式之
海棠のはなは滿たり夜の月 江戸普舩
大和行脚のとき
草臥て宿かる比や藤の花 芭蕉
兎角して卯花つぼむ弥生哉 山川
鷽の聲きゝそめてより山路かな 伊賀式之
木曽塚
其春の石ともならず木曽の馬 乙
春の夜はたれか初瀬の堂籠 曾良
望湖水惜春
行春を近江の人とおしみける 芭蕉