しら魚の骨や式部が大江山 荷兮
から崎の松は花より朧にて 芭蕉
琵琶橋眺望
雪残る鬼(獄)嶽さむき弥生かな 含呫
関こえて爰も藤しろみさか哉 宗祇法師
美濃国関といふ所の山寺に藤の咲たるを見て吟じ給ふとや
芳野出て布子賣おし更衣 杜國
湖の水まさりけり五月雨 去来
角田川
いざのぼれ嵯峨の鮎食ひに都鳥 貞室
夕月や杖に水なぶる角田川 越人
九月十三夜
唐土に富士あらばけふの月もみよ 素堂
鴫突の馬やり過す鳥羽田哉 胡及
から崎やとまりあはせて初しぐれ 伊豫随友
冬ざれの獨轆轤やをのゝおく 津島一笑
よし野山も唯大雪の夕哉 野水
大和國平尾村にて
花の陰謡に似たる旅ねかな 仝
櫻咲里を眠りて通りけり 夕楓
日の入や舟に見て行桃の花 一髪
ある人の餞別に
ほとゝぎすなみだおさへて笑ひけり 除風
五月雨や柱目を出す市の家 松芳
夕立にどの大名か一しぼり 傘下
芭蕉士を送る
稲妻にはしりつきたる別かな 釣雪
さらしなに行人々にむかひて
更級の月は二人に見られけり 荷兮
越人旅立けるよし聞て京より申つかはす
月に行脇差つめよ馬のうへ 野水
蜘の巣の是も散行秋のいほ 路通
狩野桶といふ物、其角のはなむけにおくるとて
狩野桶に鹿をなつけよ秋の山 荷兮
とまりとまり稲すり哥も替けり 京ちね
入月に今しばし行とまり哉 玄寮(察)
能きけば親舟に打碪かな 一井
品川にて人にわかるゝとて
澤庵の墓をわかれの秋の暮 文鱗
旅なれぬ刀うたてや村しぐれ 津島常秀
鳴海にて芭蕉子に逢ふて
いく落葉それほど袖もほころびず 荷兮
其角にわかるゝとき
あゝたつたひとりたつたる冬の旅 荷兮
里人のわたり候かはしの霜 宗因
越人と吉田の驛にて
寒けれど二人旅ねぞたのもしき 芭蕉
艸庵を捨て出る時
きゆる時は氷もきえてはしる也 路通
子を獨守りて田を打孀かな 快宣
高野にて
散花にたぶさ恥けり奥の院 杜國
櫻見て行あたりたる乞食哉 梅舌
高野にて
父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉
九月十日素堂の亭にて
かくれ家やよめ菜の中に残る菊 嵐雪
人のいほりをたづねて
さればこそあれたきまゝの霜の宿 芭蕉
旧里の人に云つかはす
こがらしの落葉にやぶる小ゆび哉 杜國
鎌倉建長寺にまふでゝ
落ばかく身はつぶね共ならばやな 越人
ある人のもとより見よやとて、落葉を
一籠おくられて
あはれなる落葉に焼くや島さより 荷兮
古郷の事思ひ出る暁に
たらちめの暖甫や冷ん鐘の聲 鼠彈
榾の火に親子足さす侘ね哉 去来
老をまたづして鬢先におとろふ
行年や親にしらがをかくしけり 越人
春の野に心ある人の素貌哉 伊勢一有妻
虫干に小袖着て見る女かな 冬文
六宮粉黛無顔色
宵闇の稲妻消すや月の顔 長虹
さびしき折に
つまなしと家主やくれし女郎花 荷兮
松の中時雨ゝ旅のよめり哉 俊似
山畑にもの思はヾや蕪引 松芳
末期に
散る花を南無阿弥陀仏と夕哉 守武
無常迅速
咲つ散つひまなきけしの畠哉 傘下
末期に
南無や空たヾ有明のほとゝぎす 堺元順
松坂の浮瓢といふ人の身まかりたる
にいひやりける
橘のかほり顔見ぬばかり也 荷兮
いもうとの追善に
手のうへにかなしく消る螢かな 京去来
ある人子うしなはれける時申遣す
あだ花の小瓜とみゆるちぎりかな 荷兮
世をはやく妻のみまかりける比
水無月の霧の一葉と思ふべし 野水
辞世
あはれ也灯篭一つに主コ齋
子にをくれける比
似た顔のあらば出てみん一躍り 落梧
一原野にて
をく露や小町がほねの見事さよ 釣雪
妻の追善に
をみなえししでの里人それたのむ 自悦
李下が妻のみまかりしをいたみて
ねられずやかたへひえゆく北おろし 去来
コ齋みまかりし後
その人の鼾さへなし秋のくれ 其角
母におくれける子の哀れを
おさな子やひとり食くふ秋の暮 尚白
ある人の追善に
埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉
旅にてみまかりける人を
あは雪のとヾかぬうちに消にけり 鼠彈
鳥辺野ゝかたや念佛の冬の月 加賀小春