伊勢にて
神垣やおもひもかけず涅槃像 芭蕉
西行上人五百歳忌に
はつきりと有明残る櫻かな 荷兮
おなじ遠忌に
連翹や其望日としほれけり 胡及
木履はく僧も有けり雨の花 杜國
つりがねを扇で敲く花の寺 冬松
花に酒僧とも侘ん塩ざかな 其角
貞亨つちのへ辰の歳、弥生一日東照宮
の別當、僧正の御房に、慈恵大師遷座執
事法華八講の侍るよし、尊き事なれば聴
聞にまかりて序品のこゝろを
散花の間はむかしばなし哉 越人
女房の聴聞所と覚て、御簾たれおく暗き
所あり、龍女成佛の所に至りて、しのび
あへず鼻かむ声のしければ
ほろほろと落るなみだやへびの玉 同
古寺やつるさぬかねの菫草 一井
八島にて
海士の家聖よびこむやよひ哉 伊豫千閣
夏山や木陰木陰の江湖部屋 蕪葉
奈良にて
灌佛の日に生れ逢ふ鹿の子哉 芭蕉
灌佛の其比清ししらがさね 尚白
高野にて
腰のあふぎ礼義ばかりの御山哉 一雪
齋に来て庵一日の清水哉 加賀一笑
十如是
おもふ事ながれて通るしみづ哉 荷兮
即身即佛
夏陰の晝寐はほんの佛哉 愚益
ほころびや僧の縫おる夏衣 鼠彈
魂祭舟より酒を手向けり 龜洞
平等施一切
攝待にたヾ行人をとヾめけり 俊似
稲妻に大佛おがむ野中哉 荷兮
垣越に引導覗くばせを哉 卜枝
ある人四時の景物なりとて、水鶏を
鶉とを不食、不図其心を感じて、我
も鴈をくらはず
雁くはぬ心佛にならはぬぞ 荷兮
ある寺の興行に
燕も御寺の鼓かへりうて 其角
人のもとにありて、たち出むとしける
に、またしぐれければ
衣着て又はなしけり一時雨 鼠彈
鎌倉の安國論寺にて
たふとさの涙や直に氷るらん 越人
古寺の雪
曙や伽藍伽藍の雪見廻ひ 荷兮
同
雪折やかゝる二王の片腕 俊似
朝寐する人のさはりや鉢敲 文潤
如寒者得火
まつ白にむめの咲たつみなみ哉 胡及
如裸者得衣
雪の日や酒樽拾ふあまの家
如商人得主
双六のあひてよびこむついり哉
如子得母
竹たてゝをけば取つくさゝげかな
如渡得船
月の比隣の榎木きりにけり
如病得醫
かはくとき清水見付る山邊哉
如暗得燈
秋のよやおびゆるときに起されるゝ
古宮や雪じるかゝる獅子頭 釣雪
二月廿五日奉納に
きさらぎや廿四日の月の梅 荷兮
鶯も水あびてこよ神の梅 龜洞
灯のかすかなりけり梅の中 釣雪
月代もしみるほど也梅の露 雨桐
繪馬見る人の後のさくら哉 玄察
宮の後川渡り見るさくら哉 李桃
御手洗の木の葉の中の蛙哉 好葉
宮守の灯をわくる火串かな 亀洞
破扇一度にながす御祓かな 未学
川原迄瘧まぎれに御祓哉 荷兮
若宮奉納
きゝしらぬ哥も妙也神々樂 利重
鈴鹿川夜明の旅の神楽哉 昌碧
橋杭や御祓かゝる煤はらひ 卜枝
荷兮が四十の春に
幾春も竹其儘に見ゆる哉 重五
青苔は何ほどもとれ沖の石 傘下
しばしかくれゐける人に申し遣はす
先祝へ梅を心の冬籠り 芭蕉