續猿蓑

巻之下

穐之部


續猿蓑下ノ巻へ

名 月 七 夕 穐 草 朝がほ  穐 風 稲 妻 木 實 農 業  雑 穐


 

  名 月

                 はせを
名月に麓の霧や田のくもり

名月の花かと見えて棉畠

ことしは伊賀の山中にして、名月の夜この
二句をなし出して、いづれか是、いづれか
非ならんと侍しに、此間わかつべからず。
月をまつ高根の雲ははれにけりこゝろある
べき初時雨かなと、圓位ほうしのたどり申
されし麓は、霧横り水ながれて、平田(し
ょうしょう)と曇りたるは、老杜が唯雲水
のみなり、といへるにもかなへるなるべし。
その次の棉ばたけは、言葉麁にして心はな
やかなり。いはヾ今のこのむ所の一筋に便
あらん。月のかつらのみやはなるひかりを
花とちらす斗に、とおもひやりたれば、花
に清香あり月に陰ありて、是も詩哥の間を
もれず。しからば前は寂寞をむねとし、後
は風興をもつぱらにす、吾こゝろ何ぞ是非
をはかる事をなさむ。たヾ後の人なをある
べし。                         支考評

 

名月の海より冷る田簔かな      洒堂

名月や西にかゝれば蚊屋のつき    如行

ものものの心根とはん月見哉     露沾

ふたつあらばいさかひやせむけふの月 智月

名月や長屋の陰を人の行       闇指

名月や更科よりのとまり客      凉葉

名月や灰吹捨る陰もなし       不玉

中切の梨に氣のつく月見哉      配力

名月や草のくらみに白き花      左柳

明月や遠見の松に人もなし      圃水

おがむ氣もなくてたふとやけふの月  山蜂

明月や寐ぬ處には門しめず      風国

名月や四五人乗しひらだぶね     需笑

老の身は今宵の月も内でみむ     重友

明月にかくれし星の哀なり      泥芹

いせの山田にありて、かりの庵をおもひ立
けるに
二見まで庵地たづぬる月見哉     支考

芥子蒔と畑まで行む月見哉      空牙

柿の名の五助と共に月みかな     如眞

山鳥のちつとも寐ぬや峯の月     宗比

名月や里のにほひの青手柴      木枝

場に居て月見ながらや莚機      利合

明月や聲かしましき女中方      丹楓

明月や何もひろはず夜の道      野萩

飛入の客に手をうつ月見哉      正秀

淀川のほとりに日をくらして
舟引の道かたよけて月見哉      丈草

待宵の月に床しや定飛脚       景桃

家に三老女といふ事あり。亡父将監が秘し
てつたへ侍しをおもひ出て
姨捨を闇にのぼるやけふの月     沾圃

露おきて月入あとや塀のやね     馬見

月影や海の音聞長廊下        牧童

深川の末、五本松といふ所に船をさして
川上とこの川しもや月の友      芭蕉

十六夜はわづかに闇の初哉      仝

いざよひは闇の間もなしそばの花   猿雖

  七 夕

更行や水田の上のあまの河      維然

星合を見置て語れ朝がらす      凉葉

船形の雲しばらくやほしの影    東潮

たなばたをいかなる神にいはふべき  沾圃

朝風や薫姫の團もち         乙州

  立 秋

粟ぬかや庭に片よる今朝の秋     露川

秋たつや中に吹るゝ雲の峯      左次

  穐 草

朝露の花透通す桔校(梗)かな     柳梅

細工にもならぬ桔梗のつぼみ哉    随友

女郎花ねびぬ馬骨の姿哉       濁子

をみなえへし鵜坂の杖にたゝかれな  馬見

一筋は花野にちかし畑道       烏栗

弓固とる比なれば藤ばかま      支浪

贈芭蕉庵
百合は過芙蓉を語る命かな      風麥

さよ姫のなまりも床しつまぬ花    史邦

枯のぼる葉は物うしや鶏頭花     万乎

鶏頭や鴈の來る時なほあかし     芭蕉

鶏頭の散る事しらぬ日數哉      至暁

折々や雨戸にさはる萩のこゑ     雪芝

蔦の葉や残らず動く秋の風      荷兮

山人の昼寐をしばれ蔦かづら   加賀山中桃妖

風毎に長くらべけり蔦かづら     杉下

  朝 が ほ

朝顔の莟かぞへむ薄月夜      田上尼

あさがほの這ふてしだるゝ柳かな   闇指

水も有あさがほたもて錫の舟     風麥

朝貌にしほれし人や鬢帽子      其角

  虫 附 烏(鳥)

きぼうしの傍に經よむいとヾかな  可南

竈馬や顔に飛つくふくろ棚      北枝

火の消て胴にまよふか虫の聲     正秀

秋の夜や夢と鼾ときりぎりす     水鴎

みの虫や形に似合し月の影      杜若

蜻蛉や何の味ある竿の先       探丸

蟷螂の腹をひやすか石の上      蔦雫

蓮の実に輕さくらべん蝉の空     示峯

ぬけがらにならびて死る秋のせみ   丈草

雁がねにゆらつく浦の苫屋哉     馬見

鶺鴒や走失たる白川原       氷固

粟の穂を見あぐる時や啼鶉      支考

老の名の有ともしらで四十雀     芭蕉

  穐 風

秋かぜや二番たばこのねさせ時    游刀

雀子の髭も黒むや秋の風       式之

何なりとからめかし行秋の風     支考

松の葉や細きにも似ず秋の聲     風國

をのづから草のしなへを野分哉    圃燕

ふんばるや野分にむかふはしら賣   九節

あれあれて末は海行野分かな     猿雖

  稲 妻

独いて留守ものすごし稲の殿    少年一東

稲妻や雲にへりとる海の上      宗比

明ぼのや稲づま戻る雲の端      土芳

いなづまや闇の方行五位の聲     芭蕉

   木 實 附 菌

團栗の落て飛けり石ぼとけ      為有

炭焼に澁柿たのむ便かな       玄虎

秋空や日和くるはす柿のいろ     洒堂

つぶつぶと箒をもるゝ榎み哉     望翠

はつ茸や塩にも漬ず一盛       沾圃

伊賀の山中に阿叟の閑居を訪らひて
松茸や都にちかき山の形       維然

まつ茸やしらぬ木の葉のへばりつく  芭蕉

  

後屋の塀にすれたり村紅葉      北鯤

  鹿

尻すぼに夜明の鹿や風の音      風睡

寐がへりに鹿おどろかす鳴子哉    一酌

  農 業

起しせし人は逃けり蕎麥の花     車庸

木の下に狸出むかふ穂懸かな     買山

さまたげる道もにくまじ畔の稲    如雪

いせの斗從に山家をとはれて
蕎麥はまだ花でもてなす山路かな   芭蕉

早稲刈て落つきがほや小百姓     乃龍

山雀のどこやらに啼霜の稲      斗從

居りよさに河原鶸來る小菜畠     支考

一霜の寒や芋のずんど刈       仝

肌寒き始にあかし蕎麥のくき     維然

百なりていくらが物ぞ唐がらし    木節

大師河原にあそびて
樽次といふものゝ孫に逢ひて
そのつるや西瓜上戸の花の種     沾圃

  

翁草二百十日恙なし         蔦雫

ゑぼし子やなど白菊の玉牡丹     濁子

煮木綿の雫に寒し菊の花       支考

  題画屏

むかばきやかゝる山路の菊の露    丌□峯

借りかけし庵の噂やけふの菊     丈草

  暮 秋

廣沢や背負ふて帰る秋の暮      野水

行秋を鼓弓の糸の恨かな       乙州

行あきや手をひろげたる栗のいが   芭蕉

  雑 穐

五六十海老つゐやして□(はぜ)一ツ  之道

粟がらの小家作らむ松の中      團友

あら鷹の壁にちかづく夜寒かな    畦止

残る蚊や忘れ時出る秋の雨      四友

身ぶるひに露のこぼるゝ靱哉     萩子

更る夜や稲こく家の笑聲       万乎

柿の葉に焼みそ盛らん薄箸     桑門宗波

本間主馬が宅に、骸骨どもの笛鼓をかま
へて能する處を畫て、舞臺の壁にかけた
り。まことに生前のたはぶれなどは、こ
のあそびに殊らんや。かの髑髏を枕とし
て、終に夢うつゝをわかたざるも、只こ
の生前をしめさるゝものなり。

稲妻やかおほのところが薄の穂
  芭蕉


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