阿羅野

  巻之四  初秋 仲秋 暮秋

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曠野集 巻之四

   初秋

ちからなや麻刈あとの秋の風      越人

梧の葉やひとつかぶらん秋の風     圓解

松島雲居の寺にて
一葉散音かしましきばかり也      仙化

かたびらのちゞむや秋の夕げしき  津島方生

男くさき羽織を星の手向哉       杏雨

朝貌は酒盛しらぬさかりかな      芭蕉

蕣や垣ほのまゝのじだらくさ      文鱗

あさがほの白きは露も見えぬ也     荷兮

子を守るものにいひし詞の句になりて
朝顔をその子にやるなくらふもの    同

隣なるあさがほ竹にうつしけり     鴎歩

あさがほやひくみの水に残る月     胡及

葉より葉にものいふやうや露の音    鼠彈

秋風やしらきの弓に弦はらん      去来

涼しさは座敷より釣鱸かな       昌長

畦道に乗物すゆるいなばかな      鷺汀

まつむしは通る跡より鳴にけり     一髪

きりぎりす燈臺消て鳴にけり      素秋

あの雲は稲妻を待たより哉       芭蕉

いなずまやきのふは東けふは西     其角

ふまれてもなをうつくしや萩の花    舟泉

ひょろひょろと猶露けしや女郎花    芭蕉

棚作ルはじめさびしき浦萄哉      作者不知

草ぼうぼうからぬも荷ふ花野哉   伏見任口

もえきれて帋燭をなぐる薄哉      荷兮

行人や堀にはまらんむら薄       胡及

宗祇法師のこと葉によりて
名もしらぬ小草花咲野菊哉       素堂

としどしのふる根に高き薄哉      俊似


   仲秋

かれ朶に烏のとまりけり秋の暮     芭蕉

つくづくと繪を見る秋の扇哉     加賀小春

谷川や茶袋そゝぐ秋のくれ     津島益音

石切の音も聞けり秋の暮        傘下

斧のねや蝙蝠出るあきのくれ      卜枝

鹿の音に人の貌みる夕了哉       一髪

田と畑を獨りにたのむ案山子哉   伊予一泉

山賎が鹿驚作りて笑けり        重五

紅葉にはたがおしへける酒の間     其角

しらぬ人と物いひて見る紅葉哉     東順

藪の中に紅葉みじかき立枝哉      林斧

どことなく地にはふ蔦の哀也      越水

わが宿はどこやら秋の草葉哉     宗和

わが草庵にたづねられし比
恥もせず我なり秋とおごりけり    加賀北枝

素堂へまかりて
はすの實のぬけつくしたる蓮のみか   越人

一本の葦の穂痩しゐせき哉       防川

松の木に吹あてられな秋の蝶      舟泉

ばつとして寝られぬ蚊屋のわかれ哉   胡及

心にもかゝらぬ市のきぬたかな     暁鼯

関の素牛にあひて
さぞ砧孫六やしき志津屋敷      其角

よしのにて
きぬたうちて我にきかせよ坊がつま   芭蕉

いそがしや野分の空の夜這星    加賀一笑


   暮秋

なにとなく植しが菊の白き哉      巴丈

しら菊のちらぬぞ少口おしき      昌碧

山路のきく野菊とも又ちがひけり    越人

一色や作らぬ菊のはなざかり      暁鼯

荷兮が室に旅ねする夜、草臥なをせとて、
箔つけたる土器出されければ
かはらけの手ぎは見せばや菊の花    其角

菊のつゆ凋る人や鬢帽子        同

けふになりて菊作ふとおもひけり    二水

かなぐりて蔦さへ霜の塩木哉    伊豫千閣

淋しさは橿の實落るね覺哉     濃州芦夕

残る葉ものこらずちれや梅もどき    加生

芦の穂やまねく哀れよりちるあはれ   路通


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