血を分けし身とは思はず蚊のにくさ
連れのあるところへ掃くぞきりぎりす (『そこの花』)
淋しさの底ぬけてみるみぞれかな (『篇突』)
鷹の目の枯野にすわるあらしかな (『菊の香』)
郭公鳴くや湖水のささにごり (『芭蕉庵小文庫』)
藍壺にきれを失ふ寒さかな (『丈草書簡』)
ほととぎす啼くや榎も梅桜 (『嵯峨日記』)
うづくまる 薬缶の下のさむさ哉 (元禄7年10月11日の作『去来抄』)
幾人かしぐれかけぬく勢田の橋 (『猿蓑』)
まじはりは紙子の切を譲りけり (『猿蓑』)
背戸口の入江にのぼる千鳥かな (『猿蓑』)
水底を見て来た貌の小鴨哉 (『猿蓑』)
しずかさを數珠もおもはず網代守 (『猿蓑』)
一月は我に米かせはちたゝき (『猿蓑』)
ほとゝぎす瀧よりかみのわたりかな (『猿蓑』)
隙明や蚤の出て行耳の穴 (『猿蓑』)
京筑紫去年の月とふ僧中間 (『猿蓑』)
行秋の四五日弱るすゝき哉 (『猿蓑』)
我事と鯲のにげし根芹哉 (『猿蓑』)
眞先に見し枝ならんちる櫻 (『猿蓑』)
角いれし人をかしらや花の友 (『続猿蓑』)
大はらや蝶の出てまふ朧月 (『炭俵』)
うかうかと來ては花見の留守居哉 (『炭俵』)
雨乞の雨氣こはがるかり着哉 (『炭俵』)
悔いふ人のとぎれやきりぎりす (『炭俵』)
芦の穂や貌撫揚る夢ごゝろ (『炭俵』)
水風呂の下や案山子の身の終 (『炭俵』)
黒みけり沖の時雨の行ところ (『炭俵』)
榾の火やあかつき方の五六尺 (『炭俵』)
ほとゝぎす啼や湖水のさゝ濁 (『續猿蓑』)
舟引の道かたよけて月見哉 (『續猿蓑』)
ぬけがらにならびて死る秋のせみ (『續猿蓑』)
借りかけし庵の噂やけふの菊 (『續猿蓑』)
小夜ちどり庚申まちの舟屋形 (『續猿蓑』)
あら猫のかけ出す軒や冬の月 (『續猿蓑』)
思はずの雪見や日枝の前後 (『續猿蓑』)
鼠ども出立の芋をこかしけり (『續猿蓑』)
朝霜や茶湯の後のくすり鍋 (『有礒海』)
下京をめぐりて火燵行脚かな (『記念題』)
春雨やぬ出たまゝの夜着の穴 (『笈日記』)
陽炎や塚より外に住むばかり (『初蝉』)
石経の墨を添へけり初しぐれ (『喪の名残』)
着て立てば夜の衾も無かりけり (『幻の庵』)
蚊帳を出て又障子あり夏の月 (『志津屋敷』)