初しぐれ小鍋の芋の煮加減 馬見
椀賣も出よ芳野の初時雨 空牙
穴熊の出ては引込時雨かな 為有
浮雲をそなたの空にをきにしの
日影よりこそあめになりけり
沖西の朝日くり出す時雨かな 沾圃
はつ霜や犬の土かく爪の跡 北鯤
元禄辛酉之初冬九月素堂菊園之遊
重陽の宴を神無月のけふにまうけ侍る事は、
その比は花いまだめぐみもやらず、菊花ひら
く時即重陽といへるこゝろにより、かつは展
重陽のためしなきにしもあらねば、なを秋菊
を詠じて人々をすゝめられける事になりぬ
菊の香や庭に切たる履の底 芭蕉
菊の気味ふかき境や藪の中 桃隣
八専の雨やあつまる菊の露 沾圃
何魚のかざしに置ん菊の枝 曾良
菊畠客も圓座をにじりけり 馬見
柴栞の陰士、無絃の琴を翫しをおもふに、
菊も輪の大ならん事をむさぼり、造化もう
ばふに及ばじ。今その菊をまなびて、をの
づからなるを愛すといへ共、家に菊ありて
琴なし。かけたるにあらずやとて、人見竹
洞老人、素琴を送られしより、是を朝にし
て、あるは聲なきに聴き、あるは風にしら
べあはせて、自ほこりぬ
うるしせぬ琴や作らぬ菊の友 素堂
水仙や練塀われし日の透間 曲翠
笵蠡が趙南のこゝろをいへる
山家集の題に習ふ
一露もこぼさぬ菊の氷かな 芭蕉
山茶花は元より開く帰り花 車庸
山茶花も落てや雪の散椿 露笠
冬川や木の葉は黒き岩の間 維然
本柳坊宗比の庵をたづねて
はいるより先取てみる落葉哉 イセ一道
凩や背中吹るゝ牛の聲 風斤
木枯や刈田の畔の鐵氣水 維然
恵比須講鶩も鴨に成にけり 利合
のとの海をみて
塵濱にたゝぬ日もなし浦鵆 句空
入海や碇の筌に啼千鳥 闇指
くむ汐にころび入べき生海鼠かな 亡人利雪
一塩にはつ白魚や雪の前 杉風
かくぶつや腹をならべて降霰 拙侯
杜夫魚は河豚の大さにて水上に浮ぶ、越の
川にのみあるうをなり。
喰ものや門賣ありく冬の月 里圃
水仙や門を出れば江の月夜 支考
埋火や壁には客の影ぼうし 芭蕉
侘しさは夜着を懸たる火燵かな 少年桃先
自由さや月を追行置炬燵 洞木
初雪や門に橋あり夕間暮 其角
雪あられ心のかはる寒さ哉 夕菊
鷦鷯家はとぎるゝはだれ雪 祐甫
片壁や雪降かゝるすさ俵 圃吟
思はずの雪見や日枝の前後 丈草
夜神楽に歯も喰しめぬ寒哉 史邦
食時やかならず下手の鉢扣 路草
娵入の門も過けり鉢たゝき 許六
狼を送りかへすか鉢たゝき 沾圃
煤はきや鼠追込黄楊の中 残香
才覚な隣のかゝや煤見舞 馬見
煤はきやわすれて出る鉢ひらき ミノァ如
煤掃や折敷一枚踏くだく 維然
大年や親子たはらの指荷ひ 万乎
袴きぬ聟入もありとしの昏 李由
年の市誰を呼らん羽織どの 其角
打こぼす小豆も市の師走哉 正秀
引結ぶ一つぶ銀やとしの暮 荻子
此句は圖司呂丸が羽ぐるより京にのぼると
て、伊勢にまうで侍りければ、そのとしの
暮かゝる事もいひ残して、今はなき人とな
りし。
盗人にあふた夜もあり年の暮 芭蕉
漸に寐所出來ぬ年の中 土芳
節季候や弱りて帰る藪の中 土芳
節季候の拍子をぬかす明屋哉 少年桃後
裁屑は末の子がもつきぬ配 山蜂
植竹に河風さむし道の端 土芳
寒聲や山伏村の長つゝみ 仙杖
火燵より寝に行時は夜半哉 雪芝
山陰や猿が尻抓く冬日向 コ谷
俎板に人参の根の寒さ哉 沾圃
菊刈や冬たく薪の置所 杉風