江戸芭蕉庵から京都の去来宛に書いた書簡。冒頭の一文はいかにも唐突だが、断簡であるための不自然さであって、冒頭に欠落のあったためである。珍夕は、大食漢で、この時期から元禄6年1月迄芭蕉庵に逗留した。
払へ共盡せぬものはうき世の事に御座候:<払えども尽きせぬ・・>。意味不明だが、桃隣の病気のことがその前に書かれていたのかもしれない。
珍夕愈無事に逗留、草庵せばめ、瓢の米をくらひ候:<ちんせきいよいよぶじにとうりゅう、そうあんせばめ、ひさごのこめを・・>と読む。珍碩は無事にここにいます。大男の同居で草庵は狭くなり、おまけに大食のことゆえ米櫃がすぐ無くなってしまいます、の意。
俳諧、嵐蘭など殊精被レ出:<はいかい、らんらんなどことにせいをだされ>と読む。俳諧については、嵐蘭がなかなかよいものを詠っています、の意。
貴丈御作意上達之段々、珍夕語伝、且見及候而、大悦申事に御座候:<きじょうおんさくいじょうたつのだんだん、ちんせきかたりつたえ、かつみおよびそうろうて、たいえつもうすことにござそうろう>と読む。貴方の作品が上達したことは珍夕の報告のとおりですが、実際に見て大変うれしく思っています、の意。
史邦も道筋大かた合点之躰に相見え候:<ふみくにもみちすじおおかたがてんおていにあいみえそうろう>と読む。史邦もようやく分かってきたように見えます。
若貴様御糸しかけにて土圭のうごきにや、無二心元一存候:<もしきさまおんいとしかけにとけいのうごきにや、こころもとなくぞんじそうろう>と読む。もし貴方の力で史邦が時計仕掛けになって、そのため出来がよくなったのだったとしたら、それは心もとないことです、の意。土圭は時計のこと。転じて言いなり・機械的に行動することの意にも使われている。
あはれ一力に而一眼被レ開候處、待而巳に候:<あわれいちりきにていちがんひらかれそうろうところ、まつのみにそうろう>と読む。史邦が自分の力で開眼するのをじっと待つだけです、の意。
猶別帋、羽黒呂丸子事書付申候。如何様共可レ然頼存候:<なおべっし、はぐろろがんしことかきつけもうしそうろう。いかようともしかるべくたのみぞんじそうろう>と読む。別紙に羽黒山の別当呂丸こと近藤左吉について紹介しましたが、彼の面倒を如何ようにも見てくれるようにお願いいたします、の意。