あるじはひんにたえし虚家 杜國
霧にふね引人はちんばか 野水
のり物に簾透顔おぼろなる 重五
いまぞ恨の矢をはなつ声 荷兮
しばし宗祇の名を付し水 杜國
冬がれわけてひとり唐苣 野水
秋水一斗もりつくす夜ぞ 芭蕉
日東の李白が坊に月を見て 重五
巾に木槿をはさむ琵琶打 荷兮
箕に鮗の魚をいたゞき 杜國
廊下は藤のかげつたふ也 重五
おもへども壮年いまだころもを振はず 埜水
はつ雪のことしも袴きてかへる
縁さまたげの恨みのこりし はせを
月は遅かれ牡丹ぬす人 杜國
こつこつとのみ地蔵切町 荷兮
櫛ばこに餅すゆるねやほのかなる かけい
うぐひす起よ帋燭とぼして 芭蕉
篠ふかく梢は柿の蔕さびし 野水
三線からん不破のせき人 重五
ねざめねざめのさても七十 杜國
ひとつの傘の下擧りさす 荷兮
蓮池に鷺の子遊ぶ夕ま暮 杜國
まどに手づから薄様をすき 野水
戀せぬきぬた臨済をまつ はせを
藤の實つたふ雫ほつちり 重五
袂より硯をひらき山かげに 芭蕉
ひとりは典侍の局か内侍か 杜國
しらかみいさむ越の独活苅 荷兮
杖をひく事僅に十歩 杜國
つゝみかねて月とり落す霽かな
北の御門をおしあけのはる 芭蕉
蕎麦さへ青し滋賀楽の坊 野水
朝月夜双六うちの旅ねして 杜國
命婦の君より米なんどこす 重五
佛喰たる魚解きけり 芭蕉
五形菫の畠六反 とこく
眞昼の馬のねぶたがほ也 野水
庄屋のまつをよみて送りぬ 荷兮
晦日をさむく刀賣る年 重五
襟に高雄が片袖をとく はせを
あだ人と樽を棺に呑ほさん 重五
三ケ月の東は暗く鐘の聲 芭蕉
秋湖かすかに琴かへす者 野水
聲よき念佛藪をへだつる 荷兮
おもひかねつも夜るの帯引 重五
その望の日を我もおなじく はせを
なに波津にあし火燒家はすゝけたれど
重五
炭賣のをのがつまこそ黒からめ
うきははたちを越る三平 杜國
火をかぬ火燵なき人を見む 芭蕉
門守の翁に帋子かりて寝る 重五
血刀かくす月の暗きに 荷兮
霧下りて本郷の鐘七つきく 杜國
はなに泣櫻の黴とすてける 芭蕉
僧ものいはず款冬を呑 羽笠
白燕濁らぬ水に羽を洗ひ 荷兮
宣旨かしこく釵を鑄る 重五
なかだちそむる七夕のつま 杜國
蘭のあぶらに〆木うつ音 芭蕉
釣瓶に粟をあらふ日のくれ 荷兮
つゞみ手向る弁慶の宮 野水
寅の日の旦を鍛冶の急起て 芭蕉
雲かうばしき南京の地 羽笠
泥にこゝろのきよき芹の根 重五
粥すゝるあかつき花にかしこまり やすい
狩衣の下に鎧ふ春風 芭蕉
ねられぬ夢を責るむら雨 杜國
田家眺望 荷兮
霜月や鶴の彳々ならびゐて
冬の朝日のあはれなりけり 芭蕉
漸くはれて富士みゆる寺 荷兮
寂として椿の花の落る音 杜國
茶に糸遊をそむる風の香 重五
雉追に烏帽子の女五三十 野水
庭に木曽作るこひの薄衣 羽笠
麻かりといふ哥の集あむ 芭蕉
江を近く独楽庵と世を捨て 重五
我月出よ身はおぼろなる 杜國
たび衣笛に落花を打拂 羽笠
籠輿ゆるす木瓜の山あい 野水
乞食の簔をもらふしのゝめ 荷兮
御幸に進む水のみくすり 重五
萱屋まばらに炭團つく臼 羽笠
露をくきつね風やかなしき 杜國
釣柿に屋根ふかれたる片庇 羽笠
豆腐つくりて母の喪に入る 野水
元政の草の袂も破ぬべし 芭蕉
伏見木幡の鐘はなをうつ かけゐ
春のしらすの雪はきをよぶ 重五
水干を秀句の聖わかやかに 野水
山茶花匂ふ笠のこがらし うりつ
追 加
銀に蛤かはん月は海 芭蕉
貞亨甲子歳
京寺町二條上ル町
井筒屋庄兵衛板