ころもがへ刀もさして見たき哉 釋鼠彈
肖柏老人のもちたまひしあらし山といふ香
を、馬のはなむけに文鱗がくれけるとて、
雪の朝越人が持ちきたるを忘れがたく、明る
わか葉の比、文鱗に申つかはしける
髭に焼香もあるべしころもがえ 荷兮
山路にて
なつ来てもたゞひとつの葉の一つ哉 芭蕉
切かぶのわか葉を見れば櫻哉 岐阜不交
若葉からすぐにながめの冬木哉 同藤羅
はげ山や下行水の澤卯木 夢々
枯色は麥ばかり見る夏の哉 生林
麥かりて桑の木ばかり残りけり 作者不知
けし散て直に實を見る夕哉 岐阜李桃
深川の庵にて
庵の夜もみじかくなりぬすこしづゝ 嵐雪
宵の間は笹にみだるゝ螢かな 櫻井元輔
闇きよりくらき人呼螢かな 風笛
道細く追はれぬ澤の螢かな 青江
あめの夜は下ばかり行螢かな 含呫(口偏に占)
はじめて葎室をとぶらはれける比
こゝらかとのぞくあやめの軒端哉 秋芳
筍の時よりしるし弓の竹 去来
五月雨に柳きはまる汀かな 大津一龍
岐阜にて
おもしろうさうしさばくる鵜縄哉 貞室
おなじ所にて
おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉 芭蕉
おなじく
鵜のつらに篝こぼれて憐也 荷兮
同
聲あらば鮎も鳴らん鵜飼舟 越人
先ふねの親もかまはぬ鵜舟哉 大津淳兒
松笠の緑を見たる夏野哉 卜枝
虹の音をかくす野中の樗哉 鈍可
冷じや灯のこる夏のあさ 藤羅
庵の留主に
すびつさへすごきに夏の炭俵 其角
山路来て夕がほみたるのなか哉 津島市柳
楠も動くやう也蝉の聲 昌碧
雲の峰腰かけ所たくむなり 野水
夕立に干傘ぬるゝ垣穂かな 傘下
すゞしさに榎もやらぬ木陰哉 玄旨法印
涼しさよ白雨ながら入日影 去来
おもはずの人に逢けり夕涼み 鳴海如風
飛石の石龍や草の下涼み 津島俊似
吹ちりて水のうへゆく蓮かな 岐阜秀正
蓮みむ日にさかやきはわるゝとも 松坂晨風
河骨に水のわれ行ながれ哉 芙水
連あまた待せて結ぶし水哉 文潤
引立て馬にのまするし水哉 潦月
麻の露皆こぼれけり馬の路 岐阜李晨