深川芭蕉庵から森五介こと許六に宛てた書簡。李由からの贈り物を含めて許六からのお歳暮が大量に届けられたことへの謝礼の書状である。この時期の芭蕉・許六の濃密な親交のさまを窺い知ることが出来る。
御芳墨、殊さまざま被レ懸二賢慮一、草庵賑はし申候:<ごほうぼく、ことに・・けんりょにかけられ、そうあんにぎわしもうしそうろう>と読む。御手紙と沢山の贈り物お心に懸けて下さり、おかげで草庵が賑やかになりました、の意。
煎茶李由手作にて可レ有二御座一、御すそわけ一入賞玩可レ仕候:<せんちゃりゆうてづくりにてござあるべく、おすそわけひとしおしょうがんつかまつるべくそうろう>と読む。頂いたお煎茶は李由の手作りにちがいありませんが、おすそ分けを下さり、心して味わいながら頂こうと思います。「李由」は彦根蕉門の人。
唐帋地被レ成二御下一候由、識筆仕可レ懸二御目一候:<からかみじおんくだしなされそうろうよし、しきひつつかまつりおめにかくべくそうろう>と読む。唐紙地を李由が送ってくれたそうですが、それに揮毫してお目にかけましょう、の意。「識筆」は揮毫の意。
一宿がけに御尋と兼奉レ存候へ共:<いっしゅくがけにおたずねとかねてぞんじたてまつりそうらえども>と読む。一泊しながら淡路守を訪問しようと考えていましたが、(寒い季節ですから新春10日過ぎにでもなったらと考えております)、の意。1月11日淡路守を尋ねている。年表参照。
明日自然御入来と被二仰下一候:<あすじねんごじゅらいとおおせくだされそうろう>と読む。「自然」は意図せざる状態を表し、ここでは「ひょっこりと」といった意味。明日、ひょっこりお出で下さると有り難いのですが、の意。
何とぞ年の名残所レ仰候:<なにとぞとしのなごりあおぐところにそうろう>と読む。歳末の気分を句にして見せてほしいものです、といった意味。
李由会、千那も不レ捨候由、珍重の事に存候:<りゆうかい、せんなもすてずそうろうよし、ちんちょうのことにぞんじそうろう>と読む。「李由」は句会を催しているとのこと、また千那も俳諧を止めたわけではないとのこと、大変結構です、の意。千那と芭蕉は、この時期には既によい関係ではなかった。
尚々御音物ども御心をくだかれ候と相見え:<なおなおごいんもつどもおこころを・・・あいみえ>と読む。なお、贈り物にお心をくだいていただいて、の意。
重宝之事共饋被レ下忝:<ちょうほうのことどもおくりくだされかたじけなく>と読む。大切なものを送ってくださり申し訳なく思いますが・・。
乍レ去少おびたゞしく痛入奉レ存候:<さりながらすこし・・いたみいりぞんじたてまつりそうろう>と読む。有り難いのですが、しかし、沢山ですから恐縮しております、の意。
珍碩は江戸の市へ梅かい(ひ)に遺し候故、不レ能二貴報一候:ちんせきはえどのいちへうめかいにつかわしそうろうゆえ、きほうあたわずそうろう>と読む。珍碩はただいま江戸へ梅を買いに出かけておりまして、ご返信が書けません、の意。珍碩が買いに行ったのは正月用の梅の花なのである。