芭蕉db

菅沼曲水宛書簡

(元禄7年1月29日)

書簡集年表Who'sWho/basho


年始之貴墨、忝致拝見*。愈御無異、御家内・御子達御息災に御重年之事共、珍重候*。愚夫不相替春をむかへ申候*
当年は武府之俳者、新三つ物共出し候とてさは(わ)ぎのゝしり申候へ共、正秀には我を折申候*。愚句京板*にて御覧可成候へ共、

蓬莱にきかばや伊勢の初便

伊勢に知人音づれてたよりうれしきとよみ侍る慈鎮和尚の歌より*、便りの一字うかゞひ候*。其心を加へたるにては無御座、唯、神風やいせのあたり、清浄の心を初春に打さそひたるまでにて御座候。
去年は当府に御入*、初春の出合、初笑の興もめづらしく候へば、一入ことし御なつかしく奉存候。まれまれなる雑煮を御振舞申候*。ことしは御宿にて御あぐみ候ほど、おうは(さ)しいで被申候。委細後便可申上候。頓首
    正月廿九日
曲翠雅公
竹助殿*御成長、其妹御、見ぬ内より御なつかしく候*。御染女*、御息災たるべく候。

 近江の門人菅沼曲水からの便りに返事した書簡。季節の挨拶と自分の歳旦吟「蓬莱に・・・」の句の紹介以外には重要な意味はない。