桑名に滞留中の木因に宛て、送られてきた干し白魚と書状への謝辞を述べた江戸からの返書である。談林俳諧からの改革を熱っぽく語り、「兎角日々月々に改る心無レ之候而は聞人もあぐみ*作者も泥付*事に御座候へば、随分御心ヲ被レ留、人々御いさめ可レ被レ成候。」と書いて、木因の同調を期待しているのがよく分かる。
なお、本書簡には、この天和2年7月には上京すると書いているが実現しなかった。
遠路貴墨、干白魚一箱被レ懸二御意一:<えんろきぼく、ほししらうをひとはこぎょいにかけられ>と読む。遠くから手紙や干し白魚など送って頂き、の意。
誠御心指御懇情辱奉レ存候:<まことにおこころざしごこんじょうかたじけなくぞんじそうろう>と読む.桑名から木因が送ってくれた干し白魚と書状への謝辞。
愈御無異之旨珍重不レ過レ之候:<いよいよごぶいのむねちんちょうこれにすぎずそうろう>と読む。お元気で何よりのことです、の意。
野翁無レ恙閑居に暮罷有候:<やおうつつがなくかんきょにくらしまかりありそうろう>と読む。野翁は芭蕉自身を卑下して言った言葉。私は元気で暮らしています、の意。
其元御暇なき折々も人々御すヽめ被レ成之由:<そこもとおひまなきおりおりもひとびとおすすめなさるのよし>。あなたはお忙しいときでも人々に作句について奨励しておられるとのこと、の意。大変感心していますと続く。
荊口丈:<けいこうじょう>。荊口は宮崎荊口。「丈」は敬称。
如何共可レ成御器量に相見え候:<いかがともなさるべきごきりょうにあいみえそうろう>と読む。荊口などの才能は豊かでどのようにも成長するように見える、というのである。
当春付句懸二御目一候處、御評具に致二拝見一:<とうしゅんつけくおめにかけそうろうところ、おんひょうつぶさにはいけんいたし・・>と読む。この春の句というのは、「鳶」の付句のこと。それに木因が我が意を得た回答をくれたこと。
其返事、濁子丈も先達而申通し候間、追而相達可レ申候:<そのへんじ、じょくしじょうもせだってもうしとおしそうろうあいだ、おってあいたっしもうすべくそうろう>と読む。濁子からも同じく評価してきたので、その返事を書いたので、そろそろ着く頃でしょう、の意。濁子宛書簡のこと。
御使またせ置キ(貴)報相認候故、早筆に及申候:<おつかいまたせおききほうあいしたためそうろうゆえ、そうひつにおよびもうしそうろう>。あなたからの使いを待たせてこの手紙を書いているので、用件のみです。
会被レ成候はば、懐帋御見せ可レ被レ成候:<かいならせそうらはば、かいしおみせなさるべくそうろう>と読む。「会」は句会のこと。懐紙はその作品。
来る卯月末五月之比は必上り候而、可レ得二御意一候:この年に上方に行くといっているが、実現せず、この一年余後『野ざらし紀行』の旅になる。
尚々濁子丈御隙無二御座一、出合断絶:<なおなおじょくしじょうおひまござなく、であいだんぜつ>と読む。濁子が忙しくて、句会にも出てこなくなってしまった、という。それゆえ句作技術も低下してしまったともいう。
且又白魚之書付:<かつまたしらうおのかきつけ>と読む。ここにとう山の句が、木因のものと一緒に書きつけられていたのかもしれないが、不明。