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雪の日に兎の皮の髭つくれ
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雪の日に兎の皮の髭つくれ 芭蕉
魯町曰、此句意いかゞ*。去來曰、先前書に子どもと遊びてと有れバ、子共のわざと思はるべし。強て理會すべからず。機關を踏破てしるべし*。昔先師此句を語りたまふに、予甚感動す*。先師曰、是を悦バん者、越人と汝のミと思ひしに、果てしかりとて殊更の機嫌なりし*。或曰、雪ハ越後兎の縁に出たり*。來曰
、此説の古キ事神代巻に似たり*。或曰、兎の皮の髭つくるハ、雪中寒キゆへ也*。來曰、如此に解せバ、暑日に猿若髭をはづしけりの類なるべし。いとあさまし*。
- 魯町曰、此句意いかゞ:魯町は去来の弟。兄なら分かるだろうと思って尋ねたのだろうが、・・・この句の解釈は未だ定まったとは言い難い句として現代でも残っている。以下の、去来の説明でも否定ばかりで、積極的な説明にはなっていない。魯町にも分からなかったのではないか。
- 強て理會すべからず。機關を踏破てしるべし:<しいてりかいすべからず。からくりをふみやぶりてしるべし>。強いて理屈で考えるな言葉のカラクリをすてて考えよ。益々分からなくなる説明。
- 昔先師此句を語りたまふに、予甚感動す:<むかしせんしこのくをかたりたもうに、よはなはだかんどうす>。芭蕉から、この句の説明を受けたときに非常に感動したのを覚えているよ。
- 先師曰、是を悦バん者、越人と汝のミと思ひしに、果てしかりとて殊更の機嫌なりし:<せんしいわく。これをよろこばんもの、えつじんとなんじのみとおもいしに、はたしてしかりとてことさらのきげんなりし>。芭蕉は、この句をすばらしいと思うのは君と越人だけだろうと思っていたが、はたしてその通りだったと言って非情に御機嫌だった。
- 或曰、雪ハ越後兎の縁に出たり:ある人が言うには、雪と言えば越後ウサギと関係が深いですが、それが句の解釈のヒントになるのですか。越後ウサギとは、一般的に日本列島北部に住むウサギの総称だった。そのことが雪との連想を導くのかの意。
- 來曰 、此説の古キ事神代巻に似たり;去来は答えて「あなたの言うのは古さも古し神代の話ですね。
- 或曰、兎の皮の髭つくるハ、雪中寒キゆへ也:又ある人が言うには、ウサギの皮のひげを作るのは、雪の中で寒いからですね。
- 來曰、如此に解せバ、暑日に猿若髭をはづしけりの類なるべし。いとあさまし:去来は最後に答えて、そういう解釈なら反対に暑い日には猿若ひげをはずせと言う話になってしまう。なんとも浅薄な解釈だね。